得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

「・・・おいおい、どうしてアニ研の合宿とかあるって思ったんだよ。流石におかしいとは思わなかったのか?神奈川の箱根まで行くとかよ」
「しょうがないじゃない。まさか坂道がそんなことしてるだなんて思わなかったんだし」
「でも僕、そうだって知らなかったにしてもお母さんの声が聞こえてきた時の事を思い出すと、あれが力になったって今でも思い返せるんだ。頑張れる気持ちを奮い立たせる事が出来たってさ」
「あらやだ!嬉しいこと言ってくれるじゃない坂道!」
「はは・・・それなら案外母さんが抜けてたってのが役に立ったんだな」
「抜けてたって何よ、失礼ね~」
・・・それで時間が経ち、食卓に食事の用意が出来たと言ってきた妻の言葉に三角形の形で向き合うように席に着いた小五郎達は食事をしつつ、穏やかでいて笑顔で会話を交わしていた。険悪さも気まずさも何もない、ただ平和な家族としての様子を見せる形で・・・






・・・操られる形についてを詳しく言うと長くなるのである程度かいつまんで話すが、前世においての娘の旦那になった義理の息子は高校生探偵を名乗って活動していたのだが、それが表だって出来ないといった状況だったことから小五郎を利用して再び表舞台に立てるようになるまで活動してきたのだ。

当時の自身がいかに調子に乗りやすく考えがなかったのかに関しては、今となってはよくよく理解している。そしてそういった行動に巻き込まれてしまった結果というか、義理の息子が元の形で活動出来るようになった時以降から・・・小五郎の苦難の時間は始まったのだ。

なら一体何が起きたのかと言えば義理の息子、いやその家族までもを含めていかに自分が気付かなかったとは言え利用した後のアフターケアのほとんどが為されなかったことにあった。そしてそのアフターケアも要約すれば『自分のやったことは黙っていてもらう代わりに、今までこういう理由で身代わりに立ってもらったけどもうそれも出来なくなるから後はよろしく』と言うだけの物であった。

そういった言葉に色々ありはしたものの、元々の性格からすぐ楽観的に大丈夫だろうという考えを抱いた小五郎だったが・・・それはすぐに間違いであると気付いた。何故なら義理の息子が築いた名探偵という称号に惹かれて依頼してくる者達が持ってくる依頼は、どれもこれも小五郎にとってはハイレベルな難易度を誇るものだったからだ。

そんな依頼達を前にして小五郎は依頼を達成することが出来ずに名探偵という名をすぐに地に落とすことになるばかりか、義理の息子もそうだが実の娘にまで仕方無いと言わんばかりの態度で駄目だな~みたいに言われた時には・・・心底からの怒りを覚えると同時に、必死にそれを表に出さないようにと我慢した。実際に自分ではどうにも出来ないと思ったのもある上で、義理の息子がやったことはそいつだけではなく他の者達の為にもなったのだからと思うようにする形でだ。

しかしそうして娘達にはさも駄目だよな俺~といったように小五郎はおどけてふざけるように言いはしたが、娘達に対しての怒りがあったのも事実で・・・それらを誰にも見せることなく小五郎は生活していくと共に、次第に娘達との心の距離を離すようにしていった。これは小五郎に対して同情的だとかそんなことになることはなく、むしろ小五郎が駄目だからという下に見た見方を変えることなく娘達が接してきたことから決めたことである。

だから小五郎はもう娘達に怒りをぶつけることをしないと決める代わりに、徹底した線引きをして演技力を磨き続けながら演技用の仮面をかぶり続けたのである。もう娘に義理の息子やその家族達に心を許すことは出来ないし、本音を言っても自分が馬鹿にされるだとか下に見られるだとかで取り合われることもないだろう上で、その時にはもう将来的に二人が結婚するだろうことがほぼ確定したような物だと見たからこそだ。

故に小五郎は表向きはさも以前のようにおちゃらけたオッサンというように娘達の前では見せてはいたが、裏の誰も見ていない時では演技の仮面を外していたのである。決して自分が不満を持っているとは思わせず、心理的に距離を取っているとは義理の息子達一家にもバレさせない程に巧妙に作られた仮面を・・・









.
3/21ページ
スキ