得られた平穏と望まぬ平穏の二つの平穏

「あっ、お父さん!帰ってきたの!?」
「あぁ、休みが取れたのもあるが坂道の事を聞いたのもあってな・・・まずはおめでとう、坂道。聞いたぞ、インターハイで優勝したんだってな」
「ありがとうお父さん!・・・って、お母さんから聞いたの?僕、お父さんに連絡してなかったんだけど・・・」
・・・夜の小野田家の居間にて。
家に入ってきた以前に生やしていたチョビヒゲは完全に無くした小五郎に息子の坂道が笑顔を浮かべて歓迎し、小五郎もまた笑顔で坂道の出した結果を誉めるが当人は喜んだ後、その中身に不思議そうな表情を浮かべる・・・坂道が自転車競技部のロードレースにて活動していて、かつそこでチームを優勝に導いて一番にゴールしたことは坂道からは連絡していなかった為に。
「あぁ・・・つっても話を聞いた時、ちょっと脱力しちまったけどな・・・何でもインハイの最後の場面で坂道が走ってるのを見て、ようやくアニ研じゃなく自転車競技部で活動してたって知ったってんだろ?」
「あ、あはは・・・お母さん宿泊先に来てもアニ研の合宿だってずっと思ってたんだけど、僕の姿を見てようやく分かったって言ったからね・・・」
「はは・・・あいつらしいな」
小五郎はその返答に言葉通り脱力しながら答え、坂道もまた苦笑気味に答え笑いあう・・・小五郎にとっては妻であり坂道にとっては母親である女性は天然でいてパワフルな所があり、長い時間を共にしてきた二人でも予測出来ない発言をしたり行動を取ることがあるのはよく知っていた為に。
「ま、そこについてはともかくだ・・・折角帰ってきたんだから聞かせてくれよ。どうして自転車競技部に入ったのかとか、楽しいのかとかな」
「うん!あのね・・・」
そうして小五郎はそこは一先ずと話が聞きたいと座りながら坂道に言えば、満面の笑みと肯定を返しながら話を始める・・・
(あぁ、本当に可愛いな坂道・・・)
・・・そしてそんな様子を見ながら、心底から小五郎は坂道を可愛いと思って癒されていた。裏も何もなく、純粋無垢に笑顔と話を向けてくるその姿に・・・



















・・・小五郎には前世の記憶がある。地球の日本という同じ星の名前と国でこそあるが、微妙に違いがあるパラレルワールドで暮らしてきた記憶がだ。そしてそれが何でパラレルワールドと確定したのかと言えば、前世であった筈の街がなかったことに加えて東京という場所を東都などといった呼び方などしなかったことからだ。

その上でそんな小五郎は前世は東都、今生では東京とは違う千葉という地域に生まれて姓も毛利から小野田に変わり、名前に姿形だけは前世のままという何とも言えない状態で育っていったのだが・・・生まれてすぐはどうしてこんなことになったのかだったり周りに合わせる事だったりの難しさを考えざるを得ない状態だったのだが、時が経つにつれて次第に小野田家の人間として生まれてきた事に感謝して楽しむようになっていった。それは何故かと言えば他にも理由はあるが、何より平和・・・この一言に尽きた。

前世においての小五郎の生はとある一家・・・もっと言うなら事件に関わらされるようになってから、酷く波乱万丈になっていった。それまではよくいるおっちょこちょいなダメ親父といったような印象だった小五郎が、職業として働いていた探偵として名探偵と呼ばれるよう・・・いや、今となっては呼ばれるようにさせられ操られていったことからだ。









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