いつかを変えることの代償 前編

(・・・今となって考えりゃ分かる。あいつらの性格を考えりゃ、衝突が全く起きねぇなんて有り得なかった・・・多分あの組織とやりあってなきゃ、もうちょい早く破綻してたんだろうな・・・蘭達の関係に俺達の関係は・・・)
・・・朝食を取ってから事務所へと戻り、昔の事を振り返りつつ事務所内を掃除する小五郎の顔は酷く曇っていた。









・・・娘夫婦が結婚して数年経つくらいの時だが、小五郎は基本的に自分から娘夫婦達の元には向かわないようにしていた。これは別に娘夫婦に孫がかわいくない訳ではなかったが、評判の落ちた自分の生活を維持するためには新一がいた時のような大口の依頼に期待するのではなく、地道な依頼を数と共にこなすしかなくてあまり娘夫婦の元に向かう時間が取れなかったからだ。

そんな風に地道に過ごしていた小五郎だったが、ある時英理から連絡が入った・・・それは新一と蘭の二人が大喧嘩をして、蘭が自分の元に来たという連絡だ。

その連絡に驚いた小五郎が詳しい理由を聞いていくと、何でも仕事を優先して家に戻らないどころか海外にまでも平気で向かい、長期間家を留守にする事が多い新一に対して蘭が流石にいい加減にしてほしいと怒りが爆発し、それで引かなかった新一と言い争いになり英理の元に子どもを連れてきた・・・というのである。

この話の中身を受けてその時の小五郎は呆れはしつつも、どちらもらしいなと思う気持ちがあった。新一からすれば仕事であり謎を解くために時間に手間をかけるのは当然だが、蘭は小五郎と英理が幼い頃から別居している環境で過ごしてきた影響もあって夫婦が離れて生活するような状況など求めてはいなかった。それが例え仕事の為でもだが、前なら一応は夫婦で共に事件に向かうことも出来た・・・しかし子どもが出来て家に新一が戻らない状況では、その子どもの世話をするのは蘭しかいない。そんな状況なら蘭が爆発するのは当然だし、新一からすれば仕事なのだから我慢してくれとしか言いようがない・・・両者の事をよく知る為に、小五郎からすればこうなるのはある意味当然だと感じた。

・・・両者の立場に考え、それがどのような物かと分かる小五郎だった。だが英理はそうではなかった。電話口で新一が仕事なのは分かるとは言ってはいたが、探偵としての仕事を優先しすぎている事に加えて探偵をやるような人間はこれだから信用出来ない・・・と、暗に新一へ向けてではなく小五郎に向けて言ってきたのだ。

今となって考えれば、英理の発言は自分を本気で批難するような物ではなかったと小五郎も理解はしている。自身の中にある疲れや不安やらを誰かにぶつけたいからこそ、小五郎にぶつけたのだと・・・だがその時の小五郎は怒りに頭が染まり、似たような事をして自分の元から去ったのはお前もだろうと言った。

・・・その瞬間、英理もまた小五郎に対して怒りを爆発させて瞬く間に喧嘩へと発展した。そして口論になった後に電話を切り、小五郎は酷く後悔した。散々英理とはその件で言い合いをして一時期はそれこそ離婚の危機にまでなったが、それでも新一達がくっついたことによりその危機も無くなり小五郎としては安心していたのだ。

だがそれをぶち壊すようなことを自分から言ってしまった。それも英理が精神的にキツい時にだ・・・小五郎は流石にまずいと思い前なら自分から頭を下げるなど絶対嫌だと言っていただろうが、それでもようやく復縁が見込めるほどの関係性の修復が出来ると思っていた時だったのだ。

・・・小五郎はその後すぐに英理に直に会いに行き、頭を下げた。自分が悪かったと・・・だが英理は許してくれなかった。前よりマシになったと思ったが結局貴方は昔と変わらなかったじゃないと言われて。そしてそのままの勢いで英理から離婚をしようと口にされた小五郎は、そうしたくはないと思ってはいた・・・だが即日で返事は返さず数日考えて小五郎が出した結論は、離婚をするというものだった。

・・・離婚はしたくはなかった。だが英理を自分が納得させるだけの上手い言い方や材料などないし、これまでのようにまた英理を怒らせない保証などない上に毎度毎度怒らせた時に別居だけならともかく離婚までちらつかせられたら身が持たない・・・そう思った小五郎はもう若くない自分の年齢に加え、蘭も自分の手元から離れたことから英理と無理に関係を繋ごうとするよりはと離婚することを選んだ。

尚その際に蘭にもそうだが、新一にもそんな風に考えるような事はしないでほしいと言われたがそこは前のように怒りながら返すのではなく、真剣に頭を下げてからもう無理だから済まないと返した。娘の泣き顔とその夫の複雑そうな顔を見る形で・・・







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