自らの想う物と相手の考えることの隔たり

・・・エドには前世の記憶がある。そのことに気が付いたのは、前世で家族や親族にベッドの中で看取られて息を引き取った後に、何故か赤ん坊となって現在の母親の中から引っ張り出された時からだ。

この事にエドは当時は凄まじく混乱したが、時が経ち次第に落ち着くにつれて以前からよく回る頭の中で出た結論は生まれ変わった・・・後に知る言葉で言うなら、輪廻転生をしたのだと考えた。

当時は何故と思っていたエドだが、まずそういった考えに至って何を思ったのかと言えばこちらでの両親が自分を産んだのだから、その想いに応えるためにもちゃんと生きようという物だった・・・そういう考えに至るまでは正直自分がこんな形で二度目の生を受けていいのかと様々に考えていたのだが、自分に嬉しそうに笑顔を向けてくるこちらの両親の姿を見たことから、この親の為にも生きようと思う形でだ。

そうしてちゃんと生きることを決意したエドだが、周りを調べていく内に前世とあまりにも違う環境にここはかつて自分が生きてきた世界とは根本的に違う異世界なのだと確信した。前世と比べても明らかに進んだ技術で建てられた建物が建ち並び、石炭を燃料に動いていた列車など比べ物にならない早さの新幹線があったりしたことだったり様々な理由はあるが・・・最も大きな理由はこの世界においては前世ではメジャーな存在だった錬金術士という職業が存在しなかったことに加え、自分のいた国や周辺の国々が様々な世界史に目を通しても影も形も存在しなかったからだ。

この事にエドは複雑さを感じずにはいられなかった・・・異世界に来たことに関しては元々好奇心旺盛であったことから色々と知れるとワクワクする気持ちがあったが、反面今のこの世界に自分を知る者は誰もいないのだと理解した為にだ。

しかしそれでもこちらの両親の為にも生きると決意をしたエドは、手始めにと前世では触れることのなかった事についてどんどん触れていった。そしてその中の一つには調理法も多彩に知る事が出来る事であったり食材も外国の物が安価で輸入されやすいということもあり、栄養学に料理があった。

元々から料理に関してはエドは嫌いではなかったというか、一時期必要に迫られたからというのもあるが出来ないことはなかった。だがそれはあくまでも生きていく上で身に付けた事の一端であって、家族を持つようになってからも軽い料理を作るくらいはあってもそこまで本格的に料理に取り組むことはなかった。

だがこの世界に来て前世より科学が進んでいる事から栄養学という観点で料理に対してアプローチしてみると、ことのほかエドの性に合っていることにエド自身驚いた。この辺りは元々錬金術士として科学的に物を見たり接してきたことから、料理もそういった視点で見てみれば科学と似たような物なんじゃないかと考えられた部分が大きいだろう。

ただそうして料理の知識に腕がメキメキ上がるエドだったが、それを振る舞う相手は基本的に阿笠がほとんどだ。これは両親が仕事で家にいることが少なく食事も外で取ることがほとんどだったことに加え、以前から近所付き合いで会っていた阿笠の健康状態を考えてだ。何せ見た目からして老人に出っ張った腹という肥満体に加え、科学者だか開発者だかという職業で散歩程度もしているかどうかすら怪しいという程に運動をしていないのに、結婚していないのも加えて男一人のやもめ暮らしで食事もろくに栄養バランスを考えて取ってないのである。

そんな阿笠に昔からの縁もあって、せめて食生活だけでも改めてもらおうとエドは阿笠の家に来訪して思い思いに活動すると共に食事を作って提供しているのである。









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