恵まれた場所より放逐された探偵

・・・そうして神戸と大河内が新一についてを何とも言い難い気持ちをしながら話す中、場所は移り特命係の部屋に変わる。






「・・・なぁ警部殿。良かったのか?工藤に何も言わずに送り出すような形にしちまって」
「いいも何も、上の決定です。僕にそれを覆す権利などありませんよ」
・・・夜の特命係の部屋の中、入口の壁でニヤリとした笑みでカップを傾けながら話す角田に椅子に座る杉下は表情を変えないままに答える。上の命令に異を唱えるつもりはないと。
「まぁ警部殿ならそんな風に言うだろうとは思ってたけど、工藤が大阪でうまくやれると思うかい?正直俺はうまくいかないと思うんだけどね~。この五ヶ月での感じからしてさ」
「・・・住む所が変われば気が変わるといったことも否定出来ませんからね。そこは僕にも何とも言えません」
「まぁ警部殿の言うことも有り得るだろうけどさ~・・・俺は無いと思うよ?工藤がそんな簡単に変わるなんてさ」
「だとしても尚更僕には関係の無いことですし、彼自身が自覚しなければならないことです。変わりたいと思うかどうかについてはね」
「・・・なんていうか、ちょっと警部殿・・・雰囲気的に亀山が来る前後くらいに戻ってない?あいつが特命係に定着する前までくらいの警部殿って結構人を寄せ付けない空気を感じてたんだけど、今の警部殿にその時の空気があるように感じるんだよね~・・・」
「・・・亀山君が来る前の僕、ですか・・・」
そんな返事から新一がどうなるかといった話題に変えた角田が杉下と会話を重ねるが、ふと昔に戻ったように思うと口にした角田に杉下も繰り返すように口にする・・・元々の口調から淡々としていてあまり言葉に感情が乗らない杉下だが、今はまだマシというか昔は今より機械的な雰囲気で人を寄せ付けない空気が漂っていたと。
「・・・僕としたことが、少々引きずっていたのかもしれません」
「引きずる?」
「大河内監察官から言われたことです・・・監察官からは工藤新一といたいかどうかを仕事として割り切るかどうかではなく、僕個人としての気持ちで答えてほしいと言われました。その時僕は自分の中にある考えを述べていきましたが、その考えを話した時の気持ちを引きずっていたのだと感じたんです」
「あ~、話には聞いたけど刑事部長や伊丹達だけじゃなく警部殿が拒否したのもあって、工藤は特命係から別の所に行かされるって話になるんじゃないかって事だったらしいけど・・・その時に話してた気持ちが警部殿の中に残ってたってのかい?」
「えぇ、そうです」
杉下はそんな話に引きずっていたと自身を評した上で話を進め、椅子から立ち上がり角田に手を後ろ手に組みながら背を向ける。
「角田課長の言うよう、僕は亀山君が来る前とそれからしばらくして以降の僕とは少しは違うと思っています。今となっては彼が来なかったなら、それこそ僕はそれ以前のような形で特命係にいるだけだったでしょう。頼まれたことをやるしかなくただ特命係の部屋にいるだけの日々を過ごすという形でです・・・そしてそんな当時の僕は今となって考えてみるなら、角田課長の言われたような空気を醸し出していたと思います」
「それ自分で言う?」
「当時の僕の事を自分で思い出し、端から見たならどう思うかと考えてみた結果です・・・あの頃の僕は誰かと関わるようなことはありませんでしたし、関わってくることもなく一人で特命係にいて亀山君以前に送られてきた方々とろくに話をすることもなくいました。今となって考えてみればその方々からして特命係という環境に押し込まれたことに不満を覚えたからというのもあると思いますが、僕の醸し出す空気や態度があまり心地よくなかったのではなかったのもあるのではないかと思います」
「あ~、確かに今の警部殿と昔の警部殿を思い返すと大分変わったなって思うよ。正直、亀山が来る前までは警部殿とこんな風に話せるようになるなんて思ってなかったもん」
そうして杉下自身が珍しくも自身の変化を認めつつ昔の自分がどうだったかを話していき、角田もそうだそうだと軽く相づちを打つ。本当に昔と杉下は違うと。









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