恵まれた場所より放逐された探偵

「・・・まぁついさっきも言うたけど、昔の俺なら気持ちはよう分かるいうて愚痴りあっとったやろ。けどな工藤・・・歳を取って経験を積んできた今だから言えることとして言わせてもらうと、前の俺らが高校生くらいの時に動けとったあれは周りの環境があまりにも都合が良すぎた上に、その都合の良さに俺らが甘えとったからから出来とっただけ・・・今のお前から言わせるならこっちが間違っとるみたいに思っとるかもしれんけど、こっちの方が普通の人から言わせればリアルで普通な現実なんやぞ」
「なっ・・・!?」
だが服部が続けた言葉に新一は愕然とした感情を微塵も隠すことが出来なかった・・・新一からしたならこうして転生したこの世界の方が間違っていると思っていたが、こちらの方が普通だという同類だと思っていた服部から聞かされるとは思っていなかった為に。
「多少はお前の事は調べたけど、こっちのお前の家族はいわゆる普通の家庭環境なんやろ。それに比べて以前のお前の両親は親父が世界にも名前が知られるほどの小説家で、オカンが結婚するまでは飛ぶ鳥を落とす勢いやった女優・・・こんないかにも成功者やと言わんばかりの組み合わせがそこらじゅうにおると思うか?」
「そ、それは・・・確かにそうやって言葉にされたら、そんなもんだろなんて言えるわけないだろ・・・」
「そやろ。現に俺も前の親父は俺が高校の時で大阪府警の本部長なんてお偉いさんで、府警に限って言えば頭の上がるもんなんぞほとんどおらんような立場におった。けど今回の俺の両親はそんな二人とはかけ離れたマジもんの一般人の家庭で、特筆されたもんなんか言うたらなんやけど何もない二人やった・・・そら初めはどうしてこんな環境に生まれたんやって思ったわ。けどな、普通の人の環境がどないなもんかを知らんままいうか体験せんまま生きてきたから最初はそう思っただけで、次第にこれが普通ってもんなんやって考えるようになったんや・・・前の俺やったら高校の時にはバイク乗って大阪から東京なんてこともようやっとったけど、あれは親父の金で自由にさせてもらえたからあんな風に出来たことやった。けど今回もバイクで動きたい思うても親は免許を取る金は車にしか出さん言うてバイクも含めて取るなら自分でバイトせえ言われて、どこかに行くわでこれだけ金出してくれなんて言おうもんならそんな金なんかあるかって言われたこともある・・・そんな風に言われて俺は最初はケチくさい思うたけど、こっちの親の稼ぎと以前の俺や親父の稼ぎを比べて俺が簡単に金を出してくれ言い過ぎてたと思ったんや。そして前の俺の環境は普通だったんやなく、ちょっとなんてもんやなくて滅茶苦茶に恵まれてたものだったんやってな」
「それ、は・・・」
「反論したそうな空気出しとるけど、金に関しちゃ俺よっかお前の方が明らかに恵まれとったんやぞ工藤。日本で一千万を超える年収の人間が一割もおらん中で東都なんていう世界有数に土地が高い場所にめっちゃ広い家を持っとって、親は仕事を平行して行っとるとは言え持っとる家に根を張る事もなくあっちこっちと旅をするなんていう放蕩三昧な暮らしをしとって、息子のお前は高校生の一人暮らしでもバイトせんでも食費に雑費なんか全部親からもらって暮らしとって生活が苦しくなる事なんぞ一度もなかった・・・世の中にはそんな生活とは真逆な人はぎょうさんおんのは知っとる筈なのに、それでもお前は自分は普通やったとかそんなことはないなんて言えるんか?」
「っ・・・!」
しかし尚も続けられた前世の自分達の環境についての服部からの説明と追求の言葉の数々に、新一はろくな言葉を返せずに追い込まれて詰まった声を吐き出すことが出来なかった。特に前世の工藤家がいかに恵まれていてその環境の中にいた新一が安穏としていたのか・・・端から見たらどうなのかというそれらを否応なしに服部から突き付けられると、否定など一切出来ないと新一も流石に感じてしまい。









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