恵まれた場所より放逐された探偵

「おはようございます。本日付で特命係に配属されました工藤新一です、よろしくお願いします」
「はい、僕は杉下右京と言います。立場上貴方の上司になりますので、よろしくお願いします」
それで抱えていた段ボールを部屋の椅子に置き挨拶と共に頭を下げると、その紳士然とした男性も杉下右京と名乗りつつ軽く頭を下げる。
「と言ってもここで我々に仕事はありません。一先ずはその荷物を整理してゆっくりしてください」
「あ、はい・・・分かりました」
そんな杉下が仕事を頼むではなく淡々とした様子でゆっくりと口にしたことに、肩透かしを受けたようになりながら新一は頷くしかなかった。予想していたファーストコンタクトとは大いに違うあっさりとした流れに。


















・・・そんな風に特命係に来た新一は一週間もしない内に人材の墓場だいう噂が本当であったことを確信していた。特命係には仕事はなく基本的には暇をしていて、仕事を頼まれない限りは何もすることがない。実際その一週間の中で任された仕事は組対五課の角田課長から「暇か?」とお決まりの言葉だという言葉を言われた上で、組対五課が担当した仕事の書類の後片付け整理だけという雑用も雑用な仕事ばかりだ。そしてそれで他には何もせず、杉下も新一の質問にこういうところなのだとパソコンと向き合ったり本を読みながら過ごすというだけで帰宅するというサイクルで過ごした。

そんな生活を続けた新一は唖然とするしかなかったし、本当に人材の墓場に送られたのだと自覚した。仕事は本当にまともなものは渡されることはなく、窓際部署なのだと。その上で杉下と待遇の改善についてどうにかしようと思わないのかといった会話をしたのだが、頼まれたことをやるのが特命係というように言われた上でこれ以上は聞く気はないと、続けようとした話を「君、しつこいですよ」と視線を合わせることもなく本に目を向けたまま口にして後の声かけに何も言わなくなったことで話は終わった。

そんな生活を一週間続けた所で早くも新一は警察を辞めることを考え出したのだが、そんな時に鑑識の米沢から杉下の元にこういった事件が起きたといった話が来て杉下が動き出したのを見て、久々に事件に関われる予感を感じた新一は付いてこないでいいですよと言われたのを気にせず付いていった。

それで事件現場に杉下と共に向かった新一は捜査一課の伊丹に芹沢に三浦の三人に杉下がまたかといったリアクションをされていたが、構わず事件現場に入っていく姿に特命係がこういうことで噂になっていたのだと確信した。普通の捜査ではどうしようもない事件を度々解決していっていると言うことを。

それで杉下に付いて事件と向き合った新一は自分が特命係に配属されたのは、話に聞いた以前の前任者二人のように杉下と共に活動していく為にだと考えた。自分も事件解決の為に尽力したが、杉下の推理力は自分に匹敵する上に自分とは違う視点を持っているという姿を見て。

・・・そうして特命係という所に来て一度は辞めようとした警察だが、新一は杉下の行動の在り方に面白さを見出だした上で自分も特命係なんだからこういう風に動けばいいんだと解釈し、米沢や芹沢などと独自に連絡先を交換して杉下がいる時でもいない時でも事件があれば俺に教えてくださいと言って度々起こる事件に首を突っ込んでいった。

その日々に関してを新一は久々に楽しいと感じていた。刑事部長の内村や捜査一課の三人には勝手に事件に関わったことに関してのお叱りの言葉や嫌味に皮肉の言葉をかけられるが、それでも事件に関われるということが新一にとっては何より嬉しかったのだ。特命係に来る前にいた所ではお前は事件の担当じゃないだろうと協力したいといった声は突っぱねられ、自分が事件に関わること自体を拒否されてきたためにだ。

ただそれでも自分や杉下が解決した事件を捜査一課の手柄として扱われるのは面白くないと思い、いずれはそんな状態を変えてやると意気込んでいたのだが・・・特命係に来て五ヶ月といった時に、新一に辞令が下った。それは新一は大阪府警に異動するようにというものであった。









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