恵まれた場所より放逐された探偵

「・・・特命係に配属、か・・・これからどう見るべきなんだろうか・・・?」
・・・時間は夜にして、とある警察署の一室。
安物とは言わないが決して高価でもないスーツに身を包んだ新一は机の中の荷物を机の上のダンボールに入れつつ、他には人の姿は見えない中でどういうことかと独り言を漏らしていた。






・・・今新一が何故警察署にいて荷物整理のようなことをしているのかと言えば単純に配置換えをするために私物をまとめているのだが、そもそもは前世は探偵であった新一が何故警察署にいるのかと言えば・・・探偵として活動するのを諦めたというか諦めざるを得なくなり、やむを得ず警察官になることを選んだためだ。

前世では工藤優作に有希子という有名小説家に元女優というあまりにも普通の人から見れば恵まれた環境で生まれ育ってきた新一だが、元の世界とは違うパラレルワールドに生まれた新一の家庭環境はよくも悪くも普通の家庭でしかなかった。一般的なサラリーマンにパートをやる主婦という、見た目のレベル的にも平均といったくらいのまさに普通という言葉が当てはまるようなだ。

そんな家庭に生まれた新一だが名前は何の因果か名字も名前も前世と一致し、姿形も前世のままに育っていった。それでそんな風に生まれて暮らしていき、能力の高さが明らかになっていくとトンビが鷹を生んだみたいに例えられることが多かったのだが・・・そんな両親は性格的にも穏やかで凡庸と言っても差し支えなくて近所の評判もいい二人ではあったが、新一との関係は今となってはもう血の繋がってるだけの赤の他人レベルの関係になって冷えきってしまっていた。その理由は生まれ変わっても変わらない、新一の事件に対する姿勢である。

・・・こちらでも新一は幼い頃から何か事件があればそこに首を突っ込んで解決しようとしてきたが、そこは普通の親でしかない両親が警察との関係を持っていなかった為にそんなことをしようとしても出来る筈もなかった。いや、正確には警察とは関係は出来たことは出来たのだがまた貴殿方の息子さんが勝手に事件現場に入り込んできた・・・と、問題行動を起こした新一を引き取りに来させ説教に注意を受けさせるという悪印象しか警察側に与えない関係が出来たのだ。

そんな前世とは違う警察の自分への態度に事件を解決出来ればそれでいいじゃねーかというように新一は軽く愚痴るように考えていたのだが、それで始めはたしなめるように新一を叱ってきた両親は新一が態度を一切改めることがない様子を見て接してきた・・・そして高校生になって同じような事をした際に、新一は両親から要約してこういったことを言われた。『進学か就職のどちらを選ぶにせよ、高校を卒業したら家を出ていって用事がない限りは寄り付くな。もう事件が起きてお前の尻拭いをしなければならないのは金輪際ゴメンだし、探偵になるとしても資金援助など一切しない』・・・とだ。

このほぼ実質的な勘当宣言に新一は絶句せざるを得なかったが、今まで何回注意してきても言うことを聞かずに同じような事を繰り返してきたことに加えて、もう新一が関わった事件やその後始末に巻き込まれて後ろ指を指されたり陰口を言われる生活は嫌なんだと、苦心を隠す事なく口にして顔に表した二人の姿に・・・本気で二人が自分の事で冗談ではなく、嘘偽りない本音を口にしていることを理解した。自分の活動でそれだけ苦しんできたのだと。

そして表情を改めて無表情になった二人から大学に行くなら学費に生活費は出すし、どちらを選ぶにしても賃貸物件の家賃もしばらく払ってやるから本当に出ていってくれ頼むと頭を深々と下げられた時・・・新一は食い下がることが出来ず、頷くしかなかった。両親は本当に自分に出ていってほしいのだと理解し、自分の説得を聞いてくれるとは思えずだ。

故に高校卒業し、大学に入学して以降は新一は数える程度にしかこちらの実家に帰っていない。実際に必要な時に帰った際、全く笑顔など見せられることも歓迎もされることもなかったのも相まってだ。









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