恵まれた場所より放逐された探偵

「なぁ明智よ・・・ふと思ったが記憶を持ったままこの世界にまたこうして俺らがいるわけだけど、俺ら以外の奴らってどうしてると思う?」
「どうしたんですか、いきなり?」
「いや、改めてそんなことをふと思ったんだよ。特に新一がいないからこそこうして俺からすりゃ平穏に暮らせちゃいるが、そもそもこんな状況なんだから他の人間として生まれ変わってても不思議はないんじゃねーかってな」
「成程、そう言うことですか」
・・・最早今となっては恒例となっている明智との居酒屋での飲みの場。
そこで小五郎から他の面子はどうなのかというように口にすると、明智はその中身を併せて聞いて一つ頷く。
「・・・少なくとも現状で毛利さんがいないことに気付き名乗りを上げている方はいないとのことですから、他には毛利さんや前回の事を覚えている方々はいないでしょう。もしくはいても他人となって遠い場所で生まれ変わって、その場所でその新たな人生を謳歌しているといった所かと思いますが・・・我々が逆行という形でここにいるのですから、案外ここではない平行世界に生まれ変わってる可能性も否定出来ないと思いますよ」
「パラレルワールドか・・・以前の俺ならくだらねぇって言ってただろうが、こんなことになっちまってんだからそんな物ねぇなんて言えねぇなそりゃ」
「えぇ。こうして私達が記憶を持って逆行している以上はないとは言い切れませんが、少なくとも工藤君に関しては探偵として活動出来るとはとても思えませんね」
「それは、どうしてだ?」
明知は少しの間を空けて自身の考えを口にしていく中、探偵は新一は出来ないとの言葉に小五郎は眉を寄せる。
「単純な話として探偵として活動するための下地にスポンサーがないからですよ。工藤さんがいて活動していたことから彼は警察内に知り合いがいた上で、バイトなどはせずともお金のやりくりに苦労をすることなどなく活動してきたようですが・・・そんな風に警察内に知り合いがいて、お金の心配などせずに探偵なんてことを小さい頃から出来ること自体がおかしなことなんです。ただそんな存在がいなくなったとなれば、探偵どころかお金の工面だけでも一苦労するでしょうね」
「あ~・・・確かにあいつが自由に活動出来てたのは優作さんがいたからって部分が大きかったからだな。今となって考えてみりゃ・・・」
「えぇ。どちらも工藤君が未成年の時から活動出来ていた理由として大きな物ですが、それが無くなれば工藤君が小さな頃から探偵として活動などどだい無理な話でしょう。まぁその辺りは大阪府警の本部長の父上がいたという服部君も似たような物だと思いますが、そんなものですから別に気にしなくてもいいでしょう。こちらに関わってきさえしなければ別に害はありませんし、聞き及ぶ彼の性格に考え方なら生まれ変わってこの世界にいるとしたなら、毛利さんであるとか自分の知り合いの元に顔を出して色々と探ってたりしてきてるでしょうから、それが無いなら彼はこの世界にはいないと思いますよ」
「そうか・・・まぁあいつと今更会いたいわけでもねーから別にいないならいないで構わねーか。まぁ優作さんみたいな存在が親じゃねー新一がどうなるのかってのは少し興味はあるがな」
その理由は優作の存在であり、だからこそ探偵として動けないのは目に見えている・・・そういったように話をする明智に小五郎は納得しつつ、後ろ楯のない新一がどうするかという興味を多少覗かせながら口にした。あくまで今となってはもう関係無い人物であるため多少、という程度に。


















・・・小五郎と明智は雑談の一つとして、大して深く突っ込む事なく流して話をしていた。しかし実際の所では二人の話の中身の中に正解は出ていたのである・・・パラレルワールドに新一が生まれたという正解が。









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