苦い思いの乱れる未来

・・・小五郎は退院を決めた後、元々の自分が住んでいた探偵事務所と住居に帰った。あくまでテナントとして貸し出すのは小五郎が退院するまでの短い期間という取り決めであった事から、その時の居住者もちゃんと納得済みの上でだ。

しかしここで小五郎は英理には退院に復帰については話をしたが、蘭をまたこちらで預かる・・・という話にはしなかった。いや、むしろこれからも蘭を頼むと英理に頼んだくらいである。理由としてはもう蘭も高校三年になって環境が変化するのはキツいだろうからと言うのもあるが、どちらかと言えば割合としては自分が新一達も含めてどう向き合えばいいか分からないからがかなり大きい・・・というものだ。病院で一人の時間色々と考えてはみても、簡単には蘭達を許せるような物ではないし演技でもそうだと見せられないという考えにしかならなかったと。

英理はその考えを聞いて分かったと返し、礼を言った後に小五郎はまた探偵業を再開していくのだが・・・その活動が困難になっていくのに時間は然程かからなくなっていった。その理由のほとんどを占めていたのは新一が築き上げていった『名探偵毛利小五郎』というネームバリューがでかすぎた上に、そのネームバリューを頼みに依頼してきた人々の望みの解決があまりにも小五郎にとっては難易度が高かったからである。

・・・小五郎自身、その時にはもう嫌でも理解していた。いかに自分の推理能力が新一に比べたらちっぽけな物かに、新一がいない自分がそんな推理の必要になる事件など解決を容易に出来るはずなどないということに。

そんな小五郎は復帰してからの仕事のほとんど・・・推理の必要な依頼をことごとく失敗していき、瞬く間にその名を地に落とすことになるのだが、そこにやってきたのが新一と蘭であった。

二人が言うには小五郎が仕事に復帰していたのは聞いていたが、入院する前の事があった為に顔を見せるのを躊躇っていた時に小五郎の仕事がどうなっているのかを人伝に聞いてたまらず会いに来たと言われた・・・が、そこで蘭の軽い言葉が小五郎の怒りにまた触れた。『もう、新一がいなくちゃお父さんが探偵なんかやれるわけないじゃない』という言葉が。

・・・小五郎には小五郎なりのプライドはある。まがりなりにも自分は探偵として活動して動いてきたというプライドに、それで自分だけじゃなく蘭も普通に生活させてきたというプライドが。なのに蘭はそんなそれまでの小五郎の活動を見てこなかったと言わんばかり、それも自分の生活に体を壊した新一がいなければ立派な探偵なんかじゃないと言う形でだ。

更にそこに新一が『無理すんなよおっちゃん。頑張りたいって気持ちは分かるけど俺がいないのに探偵として活動するのは無理だろうから、父さんに何かいい仕事を紹介してもらうようにするからもう探偵は辞めとけよ』と、心配と共に本気で探偵を辞めるように勧めてきた新一に・・・小五郎は入院する前の時のよう、いやその時以上に怒りを我慢出来なかった。

小五郎自身はなんと言ったか自体はあまりに激昂しすぎていて覚えていないが、ただひたすらに怒りに任せて二人に何かを口にしたことくらいは覚えている。むしろここで手が出なかったことが不思議なくらいの怒りを抱いていたことも。そしてそのあまりの怒りの凄まじさに二人、特に蘭までもが引いて拳を握ることすら出来ずに出ていったことも何とか覚えている・・・といったくらいしか覚えていない。

・・・そうして二人が出ていった訳だが、しばらくして頭が冷静になると嫌でも考えざるを得ないことが多く出てきたことで小五郎は頭を抱え数日程事務所も空けずに塞ぎこんだ。特に認めたくはないが、今の自分では探偵として活動しても広まった評判と名前のせいでろくに活動出来ないのが目に見えていた為にだ。

そしてそんな風に塞ぎこんでいた小五郎の元に来たのが、志保である。









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