万人が万人、同じ考えに視点など持ち得ない

「まぁその点で言うと取材には最初は色々と苦労したんですよ。記事には書いてはいますけど、お二人の事を誉めている人達が多数で最初はその記事のようにならないんじゃないかと思っていたんですが、少々視点を変えてお二人の普段の活動圏から距離のある場所で起こった事件に携わった方々から話を聞くとその記事にあったような事が聞けたんです。そしてそういった事も聞けたというようなことを話に出すと、初めて会った方もそうですが改めて話を聞いた方にも実は・・・みたいな言葉もいただけることが出来たんです」
「「なっ・・・!?」」
「その辺りはお二人の活躍に慣れた地域の方々だからこそ感覚が麻痺していたりであったり、あまり他と違うと分かることを声高に言えないから敢えて足並みを崩すのを避けていたという方もいたんですよ・・・貴殿方の推理に対する姿勢や行動に、正の感情や考え方だけを抱いてないというのを見せないようにする形でです」
「「っ!」」
更に続けて難しかったと言いつつも成果が出てきたことを強調するような話し方をする射命丸に、二人はまた揃って目を丸くした上でひきつったように息を呑むしかなかった。特に自分達が自信を持って行ってきたはずの推理が、受け入れられていなかったとの言葉に。






・・・どういう記事を書くか方針を固めて取材を始めた射命丸であるが、最初は二人に言ったように思ったような成果が出なかった。新一達を手放しで褒めるような人物達は多かったが、何か新一達に対して負のイメージを持ってはいるだろうが決してそれを口にしようとしない事に加えてその本音を引き出すことが簡単に出来なかった為にだ。

そうして射命丸はどうにか突破口が出来ないかと相談したのが御堂筋であるが、そういった事情を説明すると面倒そうにしながらも御堂筋はこう返した。『それ、工藤サァンに近い地域の人に聞いてるからやないですか?』と。

その答えにどういうことかと射命丸が御堂筋に聞くと、『どれだけ工藤サァンが事件を解決しとるかなんて興味はないですけど、一々数えるのも面倒な数があるんは分かりますわ。そしてそれだけの数の事件が工藤サァンの近辺でよく起こるゆうことはつまり、工藤サァンの活動範囲近辺に住んどる人らは殺人事件が起きてもまた起きたんか程度にしか考えられとらんような感じになっとって、事件に遭遇してもたいして珍しゅうないみたいに思われとるのと同時に、自分は工藤サァンのせいで不快になりましたみたいなんは言う方がおかしいみたいな風潮になっとるばかりか、事件解決をしてもらったのにそんなこと言う方がおかしい・・・みたいな流れがあったから、敢えて何も言わんとこみたいな感じやないんかと思います』と返された。

その御堂筋の言葉に射命丸も確かにと納得していた・・・あくまで今射命丸が新聞社にいるのは限定期間での出向のような形で、時が来れば場所すら普通の人はまず知らない所へと帰る予定だが・・・そういった特殊な環境と言うものは特殊なルールが出来やすい上に、そのルールに馴染めない者は異端者と言うように見られてその環境に入り込めなくなる。そんな異端者が取れる行動は自分は間違ってないと意地を張るといった対抗からの行動か、頭を垂れて自身の考えを押し止めつつルールに従うかの大抵この二つのどちらかになるのは射命丸は経験上よく理解していた。

そしてそう考えれば確かに不満があってもその考えを心中に押し殺して過ごすしかない者達がいるのもまた必然と、射命丸は御堂筋の言葉に光明を見出だした。そういった問題があるなら、また別の視点から攻めていけばいいことだと。









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