いつかを変えることの代償 前編

・・・もう一度人生をやり直している小五郎だが、以前もそうだが今の自分の能力は単純なよくある探偵としての能力ならともかくとしても、トリックを解くだとか謎に向き合うだとかの能力に関しては精々常人に毛が生えた程度だと今なら理解している。とても新一と比べれるような頭の出来ではないとも。

そんな新一が度々自分を眠らせトリックを明かすための代理に自分を使っていた事を、持ち前の調子に乗りやすく小さな疑問をすぐにどうでもいいとしてしまうクセから全く気付こうとしなかった事に関しては、自分も酷く考えのない人間だったと今なら小五郎も考えている。

だがそんな人物であると度々小五郎を使って事件を解決し、事件の後に細かい事を気にせずバカ笑いする姿を見てきたにも関わらず、新一は自分の事件が解決した後はすぐに自分の体が元に戻ったこともあって自分の居場所に戻り、前のようにと関係を元に戻したのだが・・・そこからが小五郎の苦難の始まりであった。

・・・新一が事件を解決して小五郎から離れたという事は、小五郎の元で起きる事件を勝手に解決してくれる頭がいなくなったのと同義である。そこに付け加えて言うとそうやって事件を解決して来たが、それは新一がこういう事情があって新一がほとんどの事件を解決してきたんだ・・・などと小五郎は説明することが出来なかった。新一が関わっていた事件は事を一から説明すれば下手をすると、世界を揺るがしかねない大問題になりかねない・・・それほどの危険性があると、小五郎も十分に事件の関係者から言い含められた為に事情の一端も説明できないと理解していた為に。

ただそうなると小五郎に残っているのは数々の難事件を解決してきた名探偵、という肩書きだけだ。そこには新一という頭脳はないから、難事件を解決するための能力が無くただ有名な名探偵という触れ込みだけが小五郎に残った。

・・・そこから先の小五郎の生活は本当に苦難に満ちた物だった。名探偵であることを頼りに依頼人は依頼をしてくるが、特別な謎の絡まない依頼はまだ普通の探偵としての能力があった小五郎は達成出来た。だがトリックが絡む謎の事件となれば、新一のいない小五郎がそんなものをポンポン解ける道理もない・・・次第に小五郎の評価は名探偵なんかじゃないと、新一が来る以前以下の物へと変わっていった。前なら単なるヘボ探偵程度だったが、以降は名探偵は過大評価かもしくは偶然事件を解決出来ただけのラッキーなだけの探偵だと。

ただそんな風に評価をされていきこそしたが、それでも小五郎は軽い愚痴程度は周りに漏らしこそしたが弱音を吐くような事はしなかった。何故かと言えばその時には新一と蘭はもう結婚するという状態にまでいっていて、父親である自分が娘夫婦の門出に影をもたらす訳にはいかないと思ったからだ。

元々新一も蘭も共に一人っ子の家庭で育った事から、どちらかの姓を冠してその家に入って生きることは確定事項であったが、婿入りではなく嫁入りを蘭が選んだ事から小五郎の元から蘭が離れることは確定していた。それはつまり、小五郎が一人になることを意味していた。

・・・別に結婚すればもう二度と、蘭達と会えなくなる訳ではない。だが一人で暮らしていくことが娘夫婦の目から見て不安に映れば、二人は申し訳無く思うのではないか・・・その時の小五郎は自分が親として立派な人間でないというように思っていたことから、せめて娘夫婦に強がるだけでも強がって心配をかけないようにしたい・・・そう思っての事だった。

だからこそ小五郎は父親としての威厳を出そうと精一杯に見栄を張り、自分は苦しくないと強くアピールした。その結果として娘夫婦は無事に結婚し、小五郎の元を離れた・・・それからしばらくの間は小五郎も安心していた。娘夫婦にも子供が生まれた事もあってだ。

・・・だがその幸せも長くは続かなかった・・・








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