いつかを変えることの代償 後編

・・・明智が以前に小五郎に漏らした過去を変えたといった中身。それは地獄の傀儡師として高遠を凶悪犯罪者にしないために、その切っ掛けとなった近宮の死を避けるといった物であった。

自身が未来から来てこういう風になったと、そう近宮に話した明智は続けてこう持ち掛けた。このまま何もしなければ近い内に山神達が貴女のトリックノートを奪いに来て、その中で左近寺が仕掛けた罠により貴女の命が失われる可能性が非常に高くなる。だから貴女の命を守ると共に、高遠を地獄の傀儡師にしないためにも自分の案に乗ってはくれないか・・・と。

それで明智が持ち出した案は高遠に言ったように近宮玲子の引退ならびに、山神達へのトリックノートの譲渡と言うわけである。自分は引退するからその置き土産としてノートをやるから後は好きに活動するよう、言い渡すようにと。

当初、近宮がこの案に最初は渋っていたと小五郎は聞いている。いかに弟子とは言え後で息子に託すはずだったノートを、自分達の欲の為に奪いに来るような輩達に手渡すような事はしたくないと・・・だがそれで山神達が諦めることなく動けば、近宮の命は失われることになるのは避けられなくなり高遠もまた犯罪者として名を連ねてしまう。そうならないようにするには山神達を引かせる為の材料はどうしても必要になる・・・そう明智から聞かされた近宮は苦い表情を浮かべながらそうすると頷いたとも。

それで近宮は明智と別れた後の公演の後にしばらくの療養が必要になると以降のマジックショーの予定をキャンセルし、山神達には引退を口にした上で後を託す師匠としての顔を見せながらノートを手渡したと近宮が明智に連絡してきたのだ。そして以前に近宮が死んだ日付を越え、近宮が無事に生きていることを確認して明智はこれで未来は変わった・・・そう確信したのである。地獄の傀儡師は再び生まれることはないと。






「んじゃ、山神達はもう近宮玲子を襲うような感じじゃねぇんだな?」
「えぇ、元々の目的が向こうから来た訳ですからね。ただそれでいつまで彼らが一級のマジシャンとして活動していられるかは私も分かりません」
「・・・いつまで、だと?」
「彼らは母の弟子でしたから多少他の方々より筋はいいですが、母ほどのマジックの腕も発想力も華やかさもありません。そんな彼らが身の丈に合わない母の考えたマジックを用いてしばらくは注目を浴びたとしても、十年もすれば昔の物と見られることになります。そんな時に引退した母を訪ねて再びネタをもらおうとしたところでその時の母なら適当に彼らを引退を理由にあしらえるでしょうし、自分達の考えた新たなマジックで勝負するしかなくなる・・・といった具合になるんですよ」
「・・・そうなりゃ師匠の作ったネタより劣ったマジックしか作れねぇ山神達が、どれだけ自力で活動出来るかって感じになるかってことなんだろうが・・・左近寺って奴は大丈夫なのか?以前の山神達は単に近宮玲子を脅そうとしたらしいが、左近寺は足場に細工して証拠もねぇからってしらばっくれて罪悪感もねぇような奴なんだろ?もし左近寺が近宮玲子はともかくとして、ノート自体があるなら山神達を殺すって方を選んだなら・・・」
「・・・もしそうなったとしても、私には興味はありませんよ。今の母なら左近寺が新たなマジックのネタをもらいに来たとしても引退を理由にやり過ごすでしょうし、私にとっては母さえ無事なら山神達が内紛状態になろうがどうでもいいことです。彼らに恩義を感じたことなどありませんし、彼らの事を思うことが出来るほど私は善人ではありませんからね」
「・・・その笑顔を見りゃお前をいい奴だなんて普通は思わねぇよ」
更に話を進めていき話題は山神達の明暗から左近寺という不安要素についてになるのだが、高遠が冷酷な微笑を浮かべる様子に思わず小五郎はツッコミを入れる。善人が浮かべれるような顔ではないと。









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