イレギュラーによる解決と変遷

「すみません、急に押し掛けて・・・」
「いや、大丈夫だよ。家具はほとんど貸し出されてる物で、衣類にパソコンに小物と言った俺の車でも持ち帰れる物くらいしか無いからね。半日どころか二、三時間もあれば十分引っ越しの作業は終了するさ」
・・・蔵馬に用意されたマンションの一室にて。テーブルを挟んで対面上のソファーに座り来訪を謝る新一に、蔵馬は別にいいと微笑を浮かべつつ返す。そんなに時間をかけて帰る準備をしなくてもいいと。
「しかし急にどうしたんだい?俺の住んでいる所に来たいだなんて言い出して・・・」
「いや、その・・・ちょっともう南野さんがポアロや米花町から離れるって聞いたから、それなら一回その前に軽く遊びに来れないかなって思ったんですけど・・・それで南野さんがあっさり頷いちゃったから・・・」
「大した理由は無いってことか・・・まぁいいけれどね、別に時間はまだあるし(正直に俺の事を探りに来たなんて言えないのは分かるが、流石に言い訳くらいは用意しておくべきだろう・・・この辺りは江戸川コナンの時の癖が抜けてないのもあるんだろうな。小さな子どもなら理由がなくとも、遊びに来たで済まされるといった気安さで許されていたことに)」
それで蔵馬は新一に来訪の理由を聞くが、しどろもどろでいてハッキリした理由がないことを笑顔を見せつつも用意の少なさに内心呆れていた。コナン時代の癖が抜けてないだろう事を加味してもだ。
(だがこうしてわざわざ直接ここにまで来てくれたんだ。ハマってもらうぞ、俺が無関係だと完全には信じられないまでもここで関係を絶つための俺の策に・・・)
しかしこうしてここに来たことはむしろ狙い通りの為、蔵馬は策を実行に移そうと考える。



















・・・それから蔵馬はしばらくの時間、表向きは新一に紳士でいてウィットに富んだトークでもてなしをしていった。そんな蔵馬に対して新一も見た目は楽し気に応対こそするものの、所々で周りを見渡したりしながら過ごしていた。



‘トゥルルルルル・・・’
「・・・あぁ、済まない。少し仕事関係での電話だ。ちょっと長くなるかもしれないから、テレビでも見ていてくれ。俺はしばらく席を外すよ」
「っ、はい分かりました・・・!」
・・・そんな穏やかな時間の中、蔵馬の携帯から着信音が鳴り響いてポケットから取り出し液晶を見て蔵馬がソファから立ち上がり断りを入れて部屋を出ると言うと、新一は頷き玄関の方に向かうその後ろ姿を見届ける。そして部屋から出ていき扉が閉まる様子を見てから少しして、新一は目付きを鋭くしてソファから静かに立ち上がり部屋の中の収納スペースの方へと動き出す。
「チャンスは今しかねぇ・・・南野さんがバーボンかもそうだが、公安の人間だって証拠を早く探さないと・・・!」
そのまま新一は小声ながらも表情と共に強い決意を滲ませるようにしながら、収納の中身を確認していく。蔵馬の予想通りバーボンであるかどうかに、公安の人物なのかの手掛かりを探すために。















・・・しかし時間にして十分も経たない内にあらかた収納の中だったり怪しい場所を探し回った新一だが、怪しい物は何も見付からず次第に焦った表情を浮かべ出していく。



「・・・くそっ、こうなったらパソコンを・・・!」
そしてパソコンのある部屋に来て他に探せる物が無くなった新一は流石に起動するのに時間がかかるのに加え、立ち上げている場面を見られた場合の言い訳がきかないパソコンの方へと視線を向ける。
「・・・何を、しているのかな?」
「っ、南野さん・・・!」
・・・だがそこに携帯を片手に蔵馬が冷たい視線と声を向けて現れた事に、新一は慌てて振り向き愕然とした表情を浮かべた。色々と探りに来たことが現行犯で見付かる形でバレてしまったことに。









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