イレギュラーによる解決と変遷

「それで、そんな君が俺に何の用かな?君とは初対面の筈だが、何か君に俺が迷惑でもかけたのかい?」
「・・・何故迷惑だと?」
「初対面の人物相手に声をかけるような用事なんて、仕事関係でもなければ迷惑をかけられただとか文句を言いに来たと思うものだよ。それとも俺と君は初対面じゃなく、知らない内に俺が君に何かしたから俺の所に来たのかな?」
「っ、それは・・・その・・・」
そんな内心などおくびにも出さず蔵馬は用向きは何かと何も知らないように聞くが、微笑を浮かべつつ初対面だろうとの言葉に新一は言葉を詰まらせる。
「・・・しょ、初対面なのは間違いないですよ。ただ蘭や園子から俺がしばらく学校を休んでいる間に南野さんがよくポアロに来てるって話を聞いたから、ちょっと話をしてみたいって思っただけですから・・・」
「蘭さんや園子さんから・・・あぁ、ここに来てる時に結構顔を合わせてますね(嘘だな。とっさに口から出てきた出任せなのだろうが、察するに俺が自分から迷惑をかけたのかなどという言葉が出てくると思っていなかったのだろう)」
それでも新一は二人の名前を出すのだが、蔵馬は柔らかく返す中で嘘だと即座に断定していた。予想外の返しに戸惑っているのだと。
「まぁそういうことなら別にいいが、俺に会いに来たと言うなら目的はもう達成されたのかな?まだ何かあるのなら話には付き合うけれど」
「え、え~っと・・・ちょっと立ち寄って話をしたかっただけなんで、これで失礼します・・・すみませんでした、時間を取らせて・・・」
「あぁ、大丈夫だよ。じゃあね、工藤君」
蔵馬はそんな新一にまだ何かあるなら付き合うと言うが、焦ったように頭を下げて申し訳なさそうにして退出していくその姿に柔らかく声をかける。



(・・・俺が予想外な反応をしたのに戸惑ったんだろうな。俺の事をバーボンだと疑ってこそいるものの、だからと言って自分が敵を見るような物ではなくとも何らかの疑いと言うか疑問が向けられることを考えてはいなかった・・・自分が会話の主導権を取り、どうにか俺がバーボンかどうかを探ること以外頭になかったと言ったように)
・・・そして新一がいなくなった後で表情を元に戻し文庫本に目を向ける中、内心で蔵馬は新一に対する考えを巡らせていた。頭がいい割には随分と勢い任せに行動を起こし過ぎていた事に対する呆れを含め。
(まぁどうせ今日の事はきっかけ程度にしようだとか今頃はそんな風に考えているんだろう。諦めの悪さは筋金入りだからな・・・だが俺はそれを逆手に取らせてもらうさ)
しかしそれも蔵馬にとっては折り込み済みの行動である為、次の段階に移る為に携帯を取り出す・・・


















・・・新一が『工藤新一』として初めて蔵馬に接触してから二週間程経ち、ポアロにいる間に新一は蔵馬に何度も接触してきた。時には蘭や園子をダシにする形で表向きは仲良くなりにきたよう、しかし時折見せる鋭い視線から蔵馬の正体を暴いてやろうと本当の目的を隠す形でだ。

だがそんな視線に感情など蔵馬からすれば丸わかりだったが、敢えてそれを指摘しないままに時間を過ごした上で・・・父親から呼び出しがかかり、子会社に関するプロジェクトは流れることになったということから数日の内に荷物をまとめて帰る事になったと蔵馬は新一達に切り出した・・・帰ること自体は嘘ではないが、新一の疑いを終わらせる誘い水ともするために。









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