イレギュラーによる解決と変遷

・・・ジンを使い薬のデータを手に入れることの出来た蔵馬は、次に灰原のみに接触をした上でそのデータを渡す為に動くことを考えた。ここで迂闊に新一まで巻き込むような事をすれば、余計な事になるのはまず目に見えていたからだ。それに今保護者としてその灰原を預かっている形となる阿笠にも蔵馬は情報を漏らしたくないと考えていた。阿笠は確かに二人の協力者ではあるが心理としてはどちらかと言えば新一寄りの考えであり、更に言うなら秘密を守るには些かドジな面がある。もしそんな阿笠から新一に何らかの情報が漏れたなら、自身の目論見が台無しになると見たからこそ阿笠にも話をしないようにしようと蔵馬は決めた。

そして更に付け加えるなら基本的に単独で行動することを好まない灰原は、まず余程の事態でないと一人になることはない・・・そういったことがある為、蔵馬は灰原のみを誘うのではなく歩美達と共に米花町の拠点として渡されたマンションに誘った。そしてここに新一がいないのは敢えて新一がいない時を狙って他の面々と共に誘ったからだ。出来るなら他の子ども達がいないのも望みではあったが、新一がいるよりは断然マシと思う形でだ。

それで子ども達をもてなす中で帰らなければならない時間になった時に『南野秀一』として使うために元々買ってあって持ってきた車で送ると蔵馬は切り出し、順々に車で灰原以外を送った後・・・二人きりになった時に蔵馬はある映像を見てほしいと薬のデータを撮った際の動画を灰原に見せた。

その時の灰原は蔵馬は一先ず敵ではないと若干警戒心を薄めた状態で車の助手席に乗っていたが、いきなり見覚えのあるどころではない薬のデータが映し出された映像を前にして最大限の驚愕を浮かべた・・・そして次に思考するよりも先に反射的に灰原が逃げ出そうとする一瞬、蔵馬がその腕を掴み「すぐに俺を味方だと信じることは難しいだろう。だが君に危害を加えるつもりはない・・・その事を承知してもらった上で話を聞いてほしい。これから話すことはここで俺から逃げると選択してもこれからの君に大きく関わることだ」と真剣な目で告げた。

最初、灰原はその言葉がどういう意味か分からなかった・・・組織の者の気配がしないのに何故この男はこんな映像データを持っているのか、仮にここから逃げ出したとしてもこの男は自分の今の住みかに関してを知っている、危害を加えないから話を聞いてほしいとは何の狙いなのか・・・様々な考えが浮かんだことによって、頭の中がごちゃごちゃになる形でだ。

しかしそれでも蔵馬が腕を離さなかった事に、答えを返すまでは状況の改善が出来ないだろうと見えたことに、何より暴力だとか薬を使って眠らせるだとかのそれ以上何かをするような素振りを見せなかったこと・・・その事から今すぐに何かをされる心配はないと見た灰原は話を聞くだけならと、一先ず抵抗しないとの姿勢に変えた。

そうして灰原が大人しくなった姿を見て蔵馬はもう一度マンションに戻り、改めて向かい合って話をすることにしたのだが・・・そこで最初に蔵馬がやったことは「今から君にとって信じがたい物を見せよう」と言って、『南野秀一』から『蔵馬』の姿を見せることだった。

そのいきなりの言葉もそうだが、姿の変貌に灰原は信じられない物を見るような表情を浮かべるしかなかった。何せ彼女は科学者気質で現実的な物なら受け入れられるが、空想的でいて非現実的な物を簡単に受け入れられるような性質ではないからだ。

そんな灰原の姿を見つつ、蔵馬はゆっくりと段階的に説明していった。自分が何者であるかにどのような目的があって行動しているのかを。









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