イレギュラーによる解決と変遷

・・・何故ここでジンを使ってという考えに蔵馬がなったのかと言えば、ジンが組織のコードネーム持ちの中で完全に組織側の人間であり組織側の人間の中でも指折りに畏怖と信頼が向けられているからだ。組織に忠誠を誓い、その持ち前の優れた能力で成果を誰よりも挙げていることから組織内で一目置かれる形でだ。

しかしそれはあくまでも人間の範囲内の事であり、妖怪にまでも驚異と思われるほどの能力まではない・・・少なくとも蔵馬からしてみればジンはその程度の存在であり、だからこそその一目置かれる立場を利用しようと考えたのだ。ジンなら組織のコンピューターの中のデータを確認しても変なことさえしなければまず特には怪しまれることはないだろう上、自身が組織に忍び込んだ場合に何か予期せぬ事が起きたなら後々面倒なことになりかねないと思い。

そうして蔵馬はジンの位置情報をコエンマ側から教えてもらった後、大抵いつも側に付いているウォッカと離れた時を狙いジンに催眠効果のある植物及び暗示効果のある植物を使い、行動の自由を奪った後に暗示をかけてある行動をさせた。それが組織内の施設で胸につけさせたペンに偽装させた小型のカメラに薬のデータを見えるように撮させ、それが終わった後にそのペンを泊まった所の机の上に置かせるようにとの物だ。

・・・どうしてそんな直接データを持ち出すようにとはせずこんな回りくどい暗示をかけたのかと言うと、いかにジンでも理由なくデータをフロッピーなりUSBなどの媒体に移して持ち出しするのは他人から見て怪しまれると考えたからだ。その点で最初から録画機能をオンにしたカメラで映像にして残せば何らかの媒体にデータを移す必要はなく、また何かコンピューターウィルスが発動するような仕掛けがあったなら面倒なことになると考えたために。

そういったことからペン形のカメラをジンに暗示をかけられたという自覚なく持たせ、組織の施設に適当な理由をつけてウォッカから離れさせた上で向かわせ、施設の人間には調べたいことがあると言ってコンピューターを使うと言って一人で適当なデータを併せ見ながら目的のデータを見つけて撮影させ、そしてそこから出て仮の寝床に入ったらそこを出る際にペン形のカメラを自然に机の上に置くようにさせ、その後にジンの様子を隠れ見ていた蔵馬が痕跡など何もないままに回収した・・・という訳だ。操られていた当の本人であるジンは自分の行動に違和感など感じることもないままに行動し、ウォッカを始めとした他の面々もジンに怪しさや違和感など感じさせないままに。ましてやペンの一つや二つを胸につけていたかどうかなど、付き合いの長いウォッカでも下っぱ気質で案外抜けている所もあるためにそうそう思い出すことはないだろう。

・・・普通の人間、ましてや既存の薬などでは出来ないことをしてのけた蔵馬。これは正しく妖怪であり、魔界の植物を操れ魔界でも飛び抜けた頭脳を持ってる彼だからこそ出来た事だ。他の者達が真似をしようとしたところでそんなこと出来るはずもないし、考えが及ぶはずもないだろう。そして灰原もまたその一人だった。


















「・・・ただ改めて見ても貴方が妖怪という存在だなんて思えないわ。一応貴方から話を聞いたし、本当の姿も見せてはもらったけれど・・・」
「思えないということは疑ってはいないのだろう?それに君に協力もそうだが信じてもらうためには俺の事を知ってもらわねば話にならないと思ったから、俺の事を明かしたんだ。そうでなければ君は俺の事を今ほどの信用など向けてはいなかったばかりか、どうにか不審人物に格下げされた俺と離れようと必死になっていただろうからね。そういったことを考えれば君が俺の事をどう思おうが、正体を見せた方がまだ君も割り切ることが出来ると考えたんだよ」
「そうね・・・下手に誤魔化されて有耶無耶に話を進まされるよりは今の方が良かったわ」
それで灰原は蔵馬の姿を見ながら正体を妖怪とは思えないといったように漏らし、蔵馬は平然と明かしたからこそ今の関係があると言えば確かにと灰原は頷く。









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