イレギュラーによる解決と変遷

・・・コエンマよりとある組織と薬のデータの消去を頼まれた蔵馬。その為の舞台とも言える場である米花町に来てから、しばらくの時間が経った・・・


















「・・・薬は出来そうかな?」
「えぇ、おそらくは。ただどうしても誰かが実験台にならないといけないけれど、それは私自身でやるわ。貴方の言葉だと工藤君に先に飲ませるのはまずいとの話だもの」
「まぁ飲むにしても、組織が壊滅してからにしてくれ。そうでないと工藤君が下手な行動を起こしかねないからな」
「分かってるわ」
・・・霊界より用意された広めで洋風に整えられたマンションの一室の中、机に備えられたパソコンに椅子に座って向かい軽快にキーボードを叩いていく茶髪の少女の横に蔵馬は立っていた。
そこで蔵馬と少女は穏やかな風にではあるが、中身はあまり平和的な物と言えるような物とはかけ離れていた。






・・・蔵馬の隣にいる少女は誰なのか?それは蔵馬が米花町に来た目的であるシェリー・・・本名は宮野志保で小さくなった事から、現在は灰原哀という名を名乗っている少女である。

そんな現在灰原哀と名乗っているシェリーと何故蔵馬が自分の今の住みかであるマンションにいるのかと言えば、少し前にまで時間は遡る・・・





































・・・最初、米花町に来た蔵馬は霊界から渡された組織を始めとした事に関する資料を見た後に妖孤としての姿に戻り、組織や工藤新一の様子を確認していった。

ただ何故妖孤としての姿になったのかと言えば、霊力のない存在には見えないように存在感を隠して動くためだ。霊力のある人に見えるように姿を見せることは出来るが、同様に姿を見せないことも出来るために。ちなみに妖力も極限にまで低下させ、他の妖怪だとかに気付かれないようにといった配慮もしていた。

そうして隠密に組織や工藤新一に関わることについて色々と見て調べてきた蔵馬だが、組織の事については最初から裏社会に属していることから厄介な存在だと見ていた。しかし工藤新一に関してはコエンマから聞いた話と渡された資料を読んだ後、実際に様子を伺っていた時にその厄介さをより明確に蔵馬は感じていた。

なら何が厄介なのかと言えば、その探偵としての我の強さだ・・・体が小さくなって江戸川コナンと名乗っている工藤新一だが、組織を追うという目的を達成する為に毛利小五郎という知り合いの探偵を利用しているのだ。組織の事を追うために小さくなったことをいいことに阿笠に協力してもらって毛利家に入り込み、事件が起きる度に小五郎を麻酔銃で眠らせて変声器を持って事件を解決するという形でだ。

・・・このやり方について実際に何度も事件現場での新一の姿にやり方を見ていった蔵馬はコエンマの言っていた事を理解すると共に、それ以上に厄介さを感じていた。事件が起きたことを憤る様子であったのに、事件の謎が解けた時には自信に満ちた笑みを浮かべ小五郎を自然に眠らせて事件を解決していく・・・コエンマの言葉通り、正義感と探偵としての責務を果たしているのだという高揚感を入り混ぜている・・・いや、小さくなった体の事も本人に言えば確実に否定されるだろうが楽しんでいる部分もまた存在していると。

新一が元の体に戻りたいという気持ちを持っていることは確かではあるだろうし、いつまでもずっと戻りたい戻りたいと考えているばかりでは精神的に参ってしまうだろう。だがそれでも自分の立場を隠して限られた状況の中で笑みを浮かべるその姿は、蔵馬から言わせれば子どもであるその体を楽しんでいるというようにしか見えた。むしろ逆境にあるからこそ燃えているのだと。









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