いつまでも変わらない今など存在しない

「そうか・・・こうして失敗した俺の言葉を聞きたくねぇかもしれねぇが、心して聞いてほしいことがある」
「心して、ですか?」
「あぁ・・・君なら将来警察の未来を背負って立てるだけの能力はあると見ている。しかし責任というものを理解しないままに警察に入るかそうでないかに限らず、大人になるな」
「責任を理解する・・・」
「怪盗キッドを捕まえる事が最優先と考え、俺はそうしてきた。けれどそうしてきた俺は見ての通りだが、今となっちゃ責任ってもんを全く考えてなかった事を思い知らされた・・・黒田監察官に呼び出されて話をした時は俺がキッドを捕らえなくてどうするんだって最初は息巻いたが、おそらく監察官に君が電話で言われたような中身を返されたよ・・・俺は警察官としての責任を果たしてなかった上で、最後のチャンスをみすみす無駄にしちまったんだ・・・!」
「・・・!」
・・・次第に話をしていく内に中森の瞳から溢れ出す涙を見て、白馬は息を呑んだ。中森自身頭では理解はしてはいるが、今までの怪盗キッドへの想いを全て消化しきった訳ではない。むしろこう言ったことになったからこそ想いが強くなったが、だからこそその気持ちに歯止めをかけなければならない・・・そういった葛藤が溢れだしたのだということを、白馬も感じ取って。
「・・・本音を言うなら、君に是非とも怪盗キッドを捕らえてほしいと後を託したい気持ちはある。けれどこれからの君の為に言わせてもらうなら、怪盗キッドの事もそうだが不意に出会う事件以外で現場に顔を出しに行くのは止めるべきだ」
「なっ・・・何でそんなことを・・・!?」
だが一度手を離して涙を拭った後に中森が口にした言葉に、白馬は流石に訳が分からずに何故と返した。どうしてこの流れでそう言われるのかと。
「君は確かに今までいくつもの事件を解決してきたんだろう。この日本でもそうだが、留学していたというロンドンでも。これで君が探偵となると言うんならまた別の話になるのだろうが、将来的に警察に入るというのであれば割り当てられた仕事というものに従事することが必要になる・・・しかしそこで俺のように自分がこの事件を担当したいといったように言って、動くことは望まれることじゃない。むしろ駄目な事だと言うのは俺を見た君なら分かる筈だ」
「そ、そこまで自分で言わなくとも・・・と言うか僕が動いて難解な事件が解決出来るなら、その方がいいのでは・・・」
「そう言った時に手助けが欲しいなら他所の部署に要請をかけることは十分に可能だ。現実的にそういった事をするのをプライドとか体面とかを気にしてやらないってのがほとんどだが、それでもそういったことは出来る・・・だが自己の判断、それも勝手に誰の許可もなくそんなことをしてしまえば事件は解決は出来たとしても軋轢が生まれるのは避けられない。特に黒田監察官がそんなことを見逃す筈がない」
「っ・・・黒田監察官、ですか・・・」
中森はそこで白馬の活動について触れつつもそれは望まれないということを言いつつ、黒田の事を口にしたことに白馬もたまらず眉間にシワを寄せて名前を口にした。先程のやり取りだけで今まで生きてきた白馬の人生の中でも、トップクラスに電話越しでも重い言葉をかけてきた人物の名を。









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