いつかを変えることの代償 中編

・・・小五郎は前世でコナンの時の新一がいた時もそうだが、蘭にも仕事で出掛けることがあっても仕事の中身を口にした事は自分からはない。依頼人が事務所に来て話をする際にコナン達が許可を得て同席することはあっても、仕事の依頼が入るのは一般的な休日である土日だけではないどころか平日の方が探偵事務所を開けている事が多いのだ。そんな状況で学生だった蘭達がいつも小五郎の近くにいるのは無理であったし、何より・・・依頼人に対しての守秘義務があったためだ。

時たま新一達に尾行中の姿を目撃されてなし崩しに良くも悪くも事態が動くこともあったが、それでも大抵の仕事に関して言っていいことを除いては小五郎は口を開くことはなかった。それが探偵としての義務でもあり責任でもあるのだが、あまり表立って言う事自体が憚られる依頼もあったこともあってだ。

そもそも尾行もそうだ。依頼人がいてこそで探偵という職業だからこそ何とかバレても事情を説明さえすれば犯罪にならずに済むが、大の大人が大人を尾行する・・・性別など関係無く、端から見れば怪しい事に変わりはないしバレれば警察に通報されてもおかしくはない。

更に言うなら浮気や素行調査などもそうだ。依頼人にとってみれば対象者が信用出来なかったりするから探偵に頼むのだろうが、依頼人からすれば味方ではあっても対象者からすれば敵でしかない。ましてや対象者の調査の結果が悪い時でもそうだが、いい時であったとして下手に事情を明かさない方がうまく進む場合だとしても、探偵は頼まれた調査の結果の報告を依頼人にしなければならない義務がある。後で自分の預かり知らぬ所でどうなろうと、だ。

・・・他にもまだ仕事はあるが、それでも話すよう望まれたからといってホイホイどう言った依頼があったかもそうだが、依頼人の素性を例え家族でも明かすことは仕事上相当な理由でもなければまずご法度な行為だ。下手にそれらを知った人間がもし世間話がてらにでもこういったことがあってと話し、それが依頼人かその対象者かの耳に入れば・・・どちらだろうと気分が良くないことになるのは間違いないだろうし、トラブルに発展しかねないのだ。何故依頼の事を明かしただとか、何故そんな依頼を受けたのかと。

だが探偵は自分の行動が嗅ぎ付けられるリスクを負ってでも仕事をこなさねばならない。その行動の結果として依頼を成功させたとしたとしても、その依頼内容に事情はこうで過程にはこんなことがあって結果としてこうなった・・・なんて事は余計なトラブルを避けるためにも、周りに言わない形でだ。

・・・小五郎自身、前世では探偵に夢を見て警察を辞めた身だ。自分の能力を活かせるのは組織として動かねばならない警察ではなく、探偵は自分の能力を発揮できる上で正義の存在なのだと青臭く信じて。だが自分の能力が然程でも無いことは新一がいなくなってからはより一層身に染みる程に実感してきたし、正義感を燃やして行っては仕事にならない場面になど何度も対面してきた事から、小五郎の中からいつしかそういった高潔な探偵像という物は消えてなくなっていった。

そして大抵の探偵はこういう仕事に状況になって落ち着くものだと認識していたのだが・・・新一はそんな探偵にはならなかった。いかに普通の探偵と違って求められてる仕事が違うとは言え、だ。






「地道な仕事しかしちゃなんねぇみたいなことは別に言うつもりはねぇ・・・だが今になってみりゃ確かにそう思うし、コナンとしていた時は俺の姿を見てんだから良くも悪くも探偵ってもんがどんなもんかってのは、頭はいいんだから理解して受け止めてるもんだと思ったんだが・・・」
「頭がいいから考えに柔軟性があるとは限りませんよ。むしろこのような言い方は失礼と承知で言いますが、毛利さんの姿を見てきたからこそ反面教師にしていた可能性があります。話に聞く限りでは毛利さんの事は嫌っていた訳ではないようですが、探偵としてのモデルケースにしたくないとリアルな探偵としての貴方の姿までもを見過ごす形でね」
「うわっ・・・そう聞くとすげぇ妙な気分になるな・・・もうちょい俺があいつに何かしてやれなかったのかってな・・・」
小五郎は頭を抱え愚痴るように漏らすが、明智が遠慮なく口にした言葉に更に重い空気を滲ませる。もう少し年配として、義理の父親として新一に何か伝えられなかった物かと。









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