いつかを変えることの代償 中編

「・・・その様子は、何か心当たりでも思い出しましたか?」
「あぁ・・・俺が知る限りを思い返してみたら、そう言えば新一が尾行だとか浮気調査といった仕事なんかやったって話を聞いたことなんてなくて、もっぱら殺人事件を始めとした凶悪犯罪の解決の依頼を求められて行動することが大体だった・・・ってことを思い出したんだ」
「そうですか・・・」
明智はすぐにその様子から新一絡みの物と気付き問いを向けると、小五郎が頭に手を当て口にしていった中身に若干の呆れを伴わせて声を漏らす。






・・・新一が大学を卒業して探偵を正式に職業にするとした後の経過については、蘭との復縁に関して無理とキッパリ断った時以降もある程度は把握していた。それは何故かと言えば、明智に言ったようにもっぱら凶悪事件の解決の依頼を受けてそれを解決し、新聞やテレビに乗ることも然程珍しくなかったからである。

だがそうやって舞い込んでくる事件の解決に対して奔走する一方、新一が一般的な探偵が請け負うだろう仕事に関して依頼を受けたといった話を聞いたことはまずなかった。

この事に関しては当時の小五郎は別段、気にもしたことはなかった。蘭の夫になったのだから稼ぎが少ないよりは断然いいことであるし、新一の実力に名の売れ方を考えればむしろそういった依頼よりも難解な事件が舞い込んでくるのは当然の事だろうと。

しかし今、明智によってそんな風な仕事ばかりを受けていたということは普通の探偵からすればおかしなことなのだと小五郎は気付いてしまった。






「・・・事件自体を解決すること、それは別に構いません。警察でも解決出来ない事件であったり、警察の介入が出来ないままに事件が進んでしまい連続殺人に至ったケースなどもありますからね。解決出来るなら素人だろうが探偵だろうが私は構わないと思っています・・・時と場合、そして人と状況にもよりますがね」
「・・・お前が気に食わないのは、新一が自分から事件を求めていると言ったような状況や気持ちがあったと思ったからか?」
「そうなります」
明智は自身の考えを口にしていき、小五郎も明智が言いたいことは何なのか分かった・・・新一が事件を求めているのだと。
「確かに工藤君は正義感も強いし、謎を解くための能力もあるのでしょう。そういった彼の存在を求める者達からすれば適材適所に助けに船といったところなのでしょう。それ自体を否定する気はありません・・・ですがそんな事件がある度に自ら首を突っ込み、自分が正義だとばかりにマスコミに姿を見せる工藤君の姿は探偵としてもですが人としてもどこかズレた物に見えました。事件を許さないとしつつもその事件があるからこそ自分の立場があると気付いた様子もなく、そしてそれを解決した後のカメラに向けた決め顔・・・とても事件が起きたことに対して遺憾だという考えががあったとも、ましてや悲観的な気持ちがあったなどとは私には思えませんでした。それこそ探偵は正義の味方で、自分がその体現者だと言外に示しているかのようにすら感じるほどに」
「・・・そうじゃねぇ、なんて言えねぇな・・・あいつの正義感っていうか考えの中じゃ探偵ってのはホームズだとか色んな話の中の立派なもんで、自分もそうなりたいだとかって気持ちを確かに持っていたと今なら思う・・・まぁ下手に犯罪者だとかになるよりは全然マシじゃあるんだろうが、少なくとも明智が言ったように今の時代の探偵がそんな綺麗な事ばっかりやってる訳じゃねぇ・・・むしろ場合によっちゃ人から恨み言だって買うような仕事だ・・・」
更に話を続ける明智が外から見える新一の印象を事細かに語っていくのだが、小五郎は気持ちが酷く落ち込むのを自覚しながらも否定を返せなかった。新一のある意味では世間知らずな面が今になって見えてしまった為に。










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