一方的な正しさは許される物ではない

・・・頼人は自分もそうだが、探偵が正義の存在だと思ったことなどない。依頼されたことに対して、それを受けるかどうかを決めて解決するために動く・・・シンプルではあるが、これくらいの物だというように認識している。

だが新一達は決してそんな風には考えはしないだろう。探偵としてキナ臭かったり危険な依頼をされることはあっても、それらも含めて乗り越えた上で依頼者も何らかの後ろめたい事があれば白日の元に晒す・・・それが正しい物だと信じ、動くことだろう。

しかし本来探偵に頼む仕事などというのは、表沙汰にしたくない物がほとんどだ。現に浮気調査など表沙汰になれば対象者もそうだが、依頼者も言ってみれば対象者に浮気をされたといった見られ方をされるのは避けられない。そしてそれがマスコミに広がるような事になれば・・・心ない言葉に視線が向けられる事はまず避けられない。

・・・正義というものは主観的な物であると同時に、大衆的な物でもある。大衆的な価値観に関してはともかくとしても、主観的な視点と言うものはどうしても客観的な物と違い私心からの考えにしかなり得ない。故に大衆的な視点から見たら正義であっても、主観的・・・つまりは誰かの視点から見た正義が正しいとは限らないのだ。

だが新一達はその事に決して気付くことはないだろう。大衆から正義と見られ、自分達はそうであるべきだと考えているからこそその視点があくまでも自分達から見た視点の物であることなど考えることなく・・・






「・・・どちらにしてももう僕らというか、父さんには関係無い事ですよ。それにれっきとした職業としての探偵として活動を始める新一君はこれから忙しくなるでしょうから、そう易々と会いに来れるとは思いません。それに何か妙な事があれば母さんか安室さんが連絡はしてくるでしょうから、僕達はアメリカに戻りましょう」
「分かってるが・・・世話をかけるな、頼人・・・」
「いいじゃないですか。それに今までお世話になった父親を守るのは、子どもの特権ですよ」
「・・・ホント、俺には勿体無いくらいによく出来た息子だよ。お前は・・・」
「僕からすれば、父さんこそが僕には勿体無いくらいの親ですよ」
「ふっ・・・ははは・・・!」
「ふふふ・・・!」
そしてこれで話は終わりにしようと頼人が戻ることを口にするのだが、互いが互いに笑顔を見せ謙遜し合うその姿に次第に笑い声を漏らす。親子として思い合うその姿に裏などないと、裏などないままに互いが互いに分かりあった為に・・・


















・・・そうして以降、アメリカに戻った頼人達は特に新一達から来訪を受けることなく過ごしていった。やはり頼人の策による影響が大きかったらしく、小五郎達の元に行きたいといった言葉を漏らしはするもののそうすればいいといった言葉には口をつぐむといった様子であると英理は報告をしてくれた。

やはりというか一応は新一達にも申し訳無いという気持ちはあるのだろうが、それでも今まで散々言われてきたことが尾を引いた上で尻込みをしてしまっている・・・そういった姿勢になってしまっている新一達を許す気など更々頼人にはないし、元々からそういった風にさせるつもりであったから別にどうという気持ちにもならなかった。

そしてもうそれでいいと頼人は断言出来た。新一達はまた前のようにと思っているのだろうが、そもそも小五郎の人格についても手放しで誉めている訳ではないし、人間としての能力については下だといったような認識をしている。探偵としての能力については尚更にだ。精々が根はいい人だけど、色々とだらしない人止まりだろう。

だが頼人からすれば前世も含めて、自分の事を蘭も含めて育ててくれた唯一無二の立派な父親だ。だからこそもう新一達を小五郎や自分に近付けるつもりはなかったが、それで近付くなと直接的に動いた所で新一達が自重する訳がない・・・だからこういった回りくどいやり方を頼人は取ったのだ。下手にこれからも新一達のやることやることに巻き込まれるような事になれば、またずるずると小五郎が利用される形で行くだけだろうからと。






・・・確かに世界規模で活動をしている組織の壊滅という偉業を新一達は成し遂げはした。だが正義を果たすことが全ての成功を必ずしも引き寄せるとは限らない・・・そう本人達が気付いたかどうかなどもう頼人にとってはどうでもよかった。頼人からすれば新一達との関係はもう終わった物なのだから・・・



END









.
20/27ページ
スキ