正しいから許されると誰が決めた?

「・・・おっちゃんが入院したってのは分かった。なら何でお前はここにいるんだよ、頼人?」
「その件に関しては母さんもそうですが、父さんから頼まれたんです。ここの荷物をまとめてほしいと」
「荷物をまとめるって・・・」
「父さんが長期入院する以上、下の探偵事務所もそうですがこの居住スペースについても無駄に余らせる訳にはいかないとのことです。このビルは父さん名義で所持している物件ですが、自分のものだからと言ってお金がかからないわけではありません。ですから探偵事務所にこの居住スペースの荷物を撤去し、別の方へのテナントとして貸し出す準備のための片付けを任されました」
「「えっ!?」」
そんな蘭に代わるよう新一は何故ここにいるのかと聞くのだが、まさかの答えが平然と頼人から返ってきたことに二人は驚愕の声を上げた。その言葉が指し示すのはつまり、この探偵事務所に居住スペースがもう使えなくなるのだということであることに。
「そして蘭、貴女は荷物を早くまとめて母さんの所で暮らせるようにしてほしいとの事です。父さんがそんな状態ですからここで一人で暮らすのは望まれないとのことですから」
「ち、ちょっと待って!・・・本当に二人がそんなことを言ったの・・・!?」
「僕の言葉が信じられないのでしたら、母さんに連絡をしてください。多分母さんの考えは変わらないと思いますけれどね」
「っ、ごめん新一お母さんに電話してくる・・・!」
そのまま荷物をまとめるように言う頼人に納得出来ない蘭だが、母に言えと言われて慌てて電話を取り出しながら外へと飛び出す。
「頼人・・・」
「何ですか、新一君?」
「っ・・・」
残った新一は頼人に声をかけるのだが、漆黒の闇を思わせる瞳を向けられ僅かながら息を呑んだ。






・・・新一は頼人の事が前から苦手だった。別にそれは人格的な意味ではなく、自分が頼人より劣っているのではないかと感じさせられてしまうからだ。

幼い頃から対照的な性格であったことは承知していた。声色は何故か違う人間であるはずなのに同じような声質をしているが自分は活発的に動き、頼人は内向的でありあまり社交的ではない・・・そんな頼人についてを最初は内心で自分より下だと思っていた。実際に心の中で言葉にしたことはなくとも、自分の父親と相手の父親の違いがあると思っていた為に。

しかし現実は違った・・・頼人は中学生になる前には既にアメリカの大学に行く話が出ており、そのまま一年が経つ頃にはアメリカのトップの大学へと単身留学していった。この事に関して頼人の事を評価はしつつもそれだけの能力を持っていたのだと、自分と差があることを否応なしに理解させられた。その当時の自分の能力から、そんなことは出来ないと認識した為に。

そしてそんな実力の違いについてを理解した時、新一は頼人の事をいなくなったにも関わらず苦手意識を感じるようになっていた。内向的で暗いと思えたその雰囲気に表情が、探偵として生きようとする自分でも見通せない何か深い闇のような何かを携え、感じさせるものに思えてならなかった為に。









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