過去を過去とすべきか否か 前編

「・・・僕としてはあのミネバは幼かった頃の姿を見たのもあり、その面影を感じたのもあって偽物ではないと思うんですが・・・実際に見聞きしていない貴女に聞くのはどうかと思いますが、ハマーンさんはどう思いますか?」
「・・・そのミネバ様は本物の可能性はかなり高いだろう。というより偽物として出てきてもらおうというならミネバ様の名を出すような理由など、ザビ家の最後の生き残りというネームバリューを持ってジオンの信望者を引っ張り出して決起するくらいしか期待出来ん。だがそのミネバ様はそういった狙いとは真逆にジオンの復活の為の卑怯な行動は許さないというように言ったとのことだが、そんなことをわざわざミネバ=ザビの名前を使ってやる理由はない。むしろそういった行動はジオンの信望者達の気持ちを逆撫ですることになる可能性が高いが、それでも敢えてそうしたのは・・・ミネバ様が本物だからということやそのジオンの残党達との繋がりがあったからこそでもあるが、何よりそんなジオンの残党に信望者達と敵対してでも動くという確固とした覚悟があったからだろうな」
「だから貴女はミネバは本物の可能性が高いと見ている、ということですか・・・」
「・・・正直、皮肉だと感じているよ。あれだけ私と共にネオジオンを導こうと言っていたのにそれを否定したシャアが私がいなくなった途端にネオジオンの総帥になり、せめて命だけはとジオンの身内争いに関わらせないように逃がしたミネバ様がジオンの終幕の幕引きをすることになる・・・フフフ・・・」
「ハマーンさん・・・」
そんな姿を見ながらも敢えてミネバが本物と思うかと聞くカミーユに、ハマーンはまず本物というように答えるのだが・・・次第に自嘲の笑みと声を漏らしていった上で顔を伏せるという内心の乱れを感じさせる様子に変わっていったことに、カミーユはただ名前を口にして悲しげな顔になるしかなかった。ハマーン自身も言ったがハマーンに深く関わった二人がジオンの行く末を大きく左右していったことは、それだけ身につまされる物があったのだと感じ・・・


















・・・そうして十数分程といった時間を重い沈黙という形でカミーユはハマーンの様子を伺っていたのだが、すっと顔が上がるとそこには穏やかなハマーンの顔があった。
「・・・大丈夫ですか?」
「・・・済まないな。心配をかけたようだが、ようやく落ち着くことが出来た・・・もう問題はないさ」
「すみません、聞かれたから答えなくてはと思いはしたんですがもう少し言い方を考えるべきだったと思います・・・」
「いや、構わんさ・・・むしろそのような結果になったことを知れて良かったとすら思っている。シャアに関しては理解は出来ぬが、ミネバ様がそのように動かれたということはかつてシャアに言われたが、偏見の塊のような存在ではなくなったのだと知れてな」
カミーユはそっと大丈夫かと確認を向けるが、ハマーンはむしろ良かったと微笑を浮かべる。
「先程話したが私の前で見せなかった笑顔をミネバ様が浮かべた時は、今更ながらにミネバ様をこのままにしていいものかと思った。そしてそういった時にグレミーの反乱が起きて三つ巴といった様相になったが、その時には私が負けた後のミネバ様の安全を考えていたのもあるが・・・もし私が勝ったとしても、もうミネバ様は元に戻さずにそのままでいさせようと思っていたんだ。例え勝っても私が近くにいてはミネバ様の為にはならないとな」
「・・・じゃあその影武者の娘はどうするつもりだったんですか?」
「折を見てミネバ様は何らかの理由から死んだと発表すると共に陰で逃がすといった処置を取っただろうな。その時にミネバ様がいる意味は象徴的な物だけになるであろうし、グレミーやエゥーゴを撃退したとなったなら余程の敵が現れなければまず私に歯向かう者は現れんだろう・・・まぁシャアの登場の事はその当時の私は預かり知らぬことだから除外するが、どちらにしてもそこまで来ればミネバ=ザビという象徴は必要無いからお役目御免として、無事にその娘を逃がそうとくらいはしていたと思うさ。せめてものなけなしの情を持ってな」
「・・・そういうことなら良かったと思いますよ」
それでミネバについてもだがカミーユから問われて影武者に対しても逃がす事を考えていたといった旨を話すハマーンに、カミーユは良かったとだけ返す。シャアの事もあって実際にその場面になっていたらどうなるか分からないからこそ、せめてハマーンにその気があったと知れただけいいと。









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