「この事に関しては我は医者ではない故、確実にそうだというようには言えぬ。だが小五郎のそのような面を知っているからこそ名探偵と呼ばれるようになってからの活動の仕方を思えば、知らず知らずの内に無理をしていたのだろうと見た上で・・・下手に療養したとマスコミに発表してそれらが広まったとしたならマスコミの動き方次第では小五郎の療養にならないと思い、我の元に来るようにと話を持ち掛けたのだ。今の小五郎にとって必要なのは誰かに注目されることのない静かな環境だと思ってな」
『そ、そういうことだったんですか・・・』
だから推測混じりであると踏まえた上で小五郎を招いた・・・そう語る叔父の言葉に蘭は動揺しつつも納得するしかなかった。その推測が正しいなら今の小五郎にとって人目というのは良くないのは確かだと思うというよう。
「故に話はされているだろうが、これよりは小五郎の妻の元で暮らすようにするのだ。精神的な理由による病気を治療するには長期的な期間が必要になるのが想像出来るため、そちらがこちらに来るとしたなら高校を卒業はおろか大学に入って卒業しても治らない可能性も小五郎の症状次第ではないとは言えん。その事から今の高校に通いたいと言うなら小五郎の妻の所で暮らすがいいだろう」
『っ・・・分かりました、そうすることにします・・・では失礼します・・・』
そして改めて英理と暮らすようにと小五郎の元にそれでも来るならこれだけの覚悟が必要と叔父が告げれば、蘭はもうこれ以上何も言えないと力なくそうすると言って電話を切り、叔父は電話を小五郎に返す。
「・・・話は済んだ。後に警戒するべきは見舞いという名目の予期せぬ来訪といったくらいだが、お前の妻もこの家の事は知らぬということからお前に聞く以外にこちらに来るなど出来んだろう。その時には適当にお前が誤魔化せ・・・そこまでは我は関与せぬぞ」
「いえ。ここまでしてくださっただけでも本当にありがたく思っていますから、後は自分でやります。それに博士には俺の事は放っておいた方がいいと説得するようにしてもらう手筈になっているので、余程のことがなければあいつらは自分達の都合もあって俺を気に掛けるだとかはともかく、早く戻って来いと言ってくる事はまずないと思っていますから」
「なら構わん。我としてはそのような厄介事までを抱えるつもりなどない」
それでまた淡々と話していく叔父の言葉に小五郎も腰を低く頭を下げる中で大丈夫だという根拠を口にし、その中身に辛口な言葉を添えつつもそれならいいと返す。






・・・気にかけるのはともかく、早く戻って来いとは言わなくなるとはどういうことか？それは阿笠に話させる事だが、『江戸川コナン』がいなくなった後の毛利小五郎が名探偵として事件が解決出来なくなったらどうなるか・・・ということを投げ掛ければ、その時になって初めてという形で新一もだが蘭も今まで裏で事件を解決していた新一がいなくなり、その評判が瞬く間に落ち込んでいくということに気付くだろうということからであった。

だがそもそもそうした大本であった新一がそんな小五郎をどうにかするなど到底出来る筈もないのだが、だからこそ小五郎が病気で長い間の療養が必要という状況が新一達からすれば渡りに船という事になるのだ。下手に小五郎に探偵を辞めてくれと説得しなくていいし、長期間となれば少なくとも小五郎が帰ってくるといった報告がないならそれまでの間は頭を悩ませずに済むことになるからと。

それに新一と共に組織を追っていた面々の中の一人からしても下手に小五郎が探偵を続けていった場合の事を聞けば、そういうことならそっとしておこうと切り出すことだろう。心情的にもそうだが比較的小五郎や新一に近い位置にいたからこそ、自分の本来の位置に自然に戻るためにもと・・・現実はそういった打算も加わるだろうから小五郎が長期間離れる事を許容するだろうと見越しての事などとは一切気付けずだ。









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