曇りを晴らした先に道化の探偵は覚醒する

「・・・灰原の嬢ちゃんが来てからもう博士の家は使えねぇって思ったからここを使えるようにって段取りをしたが、それが正解だってのを改めて実感してるぜ。まさかFBIなんて存在までが絡んできてるどころか、嬢ちゃんを守るためとはいえ盗聴までするなんてよ」
「哀ちゃんの為という気持ち自体は分からぬでもないが、その事からワシも家では迂闊な事を喋れなくなったからのう・・・」
・・・とあるアパートの一室。
パソコンが備え付けられたデスクと簡素なテーブルと冷蔵庫があるくらいの部屋の中、小五郎は阿笠と何とも言い難い空気感を滲ませながらテーブル越しに話し合っていた。今の新一や自分達の周りの環境に関してを。






・・・二人の秘密の関係が出来てから然程時間が経たず、阿笠は灰原哀と偽名を名乗らせる事にした少女を保護したと小五郎に報告した。経緯を聞けば元々灰原は新一を小さくした男達の所属している組織にいたが、姉を殺された衝撃を受けて疑いから手錠に繋がれていた時に新一に飲ませた薬を自分も飲み、体が小さくなって手錠から手首が抜けた所でその小さくなった体を用いて脱出し、同じく薬を飲まされたという新一が生死不明となっていることから生存しているのではないかと工藤邸に来たのを保護した・・・と。

その事に小五郎はどんな流れだよと思わずにはいられなかったが、それでもそんな灰原を追い出してしまえとは流石に言えなかった。これは灰原に同情出来ない訳でもないのもあったが、仮に追い出したとして何らかの心変わりや打算から新一の情報を持って帰られて組織にバラされるだとか、追い出してもしかすれば灰原が見付かって捕まった上で今までの事を吐き出させられ、新一共々自分達をその男達が始末しに来るといった可能性を考えてだ。

ただそうして灰原を受け入れると決めたことにより、度々新一の事で阿笠の家を新一達に内密に訪れていた小五郎は色々な意味から灰原に話を聞かせる訳にはいかない・・・と考えたことから、小五郎は灰原にはバレないようにと厳命した上で今いるアパートまで阿笠を呼び出した。これから何かある時はここに来るようにしようというのもだが、灰原に見せられないだとか聞かせられない事に関してはここでやるようにと言う形でだ。

そんないきなりの小五郎からの言葉に動揺しつつ阿笠はここはどういう場所なんだと聞くのだが、そこで蘭には言わないようにと念押しをした上で小五郎は答えた。このアパートは自分が持っている物件であって、普段は使っていないが何かある時用にこの部屋を空けているのだと。

そんな答えに何でここを持っているのかと聞く阿笠だが、小五郎の親が今住んでいるあの探偵事務所のビルを建てるとなった際にこのアパートも建て、探偵稼業がうまくいかなかった場合の保険として金を得られるようにとの気遣いを受けたものだと答えた。蘭の事を考えるとそうならないようにするためのものだと。

だがそれでアパートの事を蘭に言ってないのは何故かと阿笠が言えば、自分の意地もあるが蘭の金銭感覚を変にしないためでもあると答えた・・・下手に不労所得だけで余裕で暮らせるだけの金があると知らせると、蘭がそういったことから自分に金を出させる事を平気で出させるようになる可能性を考え、敢えてポアロの家賃と自分の探偵としての収入くらいで目茶苦茶余裕があるわけではないと言うことで、蘭に金の価値やら何やらを学んでほしいと。

そう聞いて阿笠は納得した・・・ポアロの家賃は東都で場所もいいというだけあり三十万以上と高い物になるが、同じように物価も高い上に私立の学校に通う蘭の学費を考えればポアロの家賃収入だけでは少々心許ない物であり、小五郎の探偵での収入があって今の生活が成り立つ物だと言われれば確かに蘭も大丈夫と自信を持っては言えず、そこまで派手な事は出来ないと考えられるような娘になるだろうと。

だからそれでアパートを持っていても誰にもその事を話さなかった事は理解出来た上で、だからこそそんな身内には知られていないアパートが隠れ家としてちょうどいいということで、度々阿笠は小五郎と会う事もそうだが灰原にバレればまずいことをやる時にこのアパートの部屋に来るようになったのである。米花町からは少し離れているがそこまで遠くもなく、住宅街の中の一角に存在している変哲もないアパートは恰好の隠れ家としてちょうどいいということからだ。









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