救う者と救われるもの 第十話

そしてまた一方その頃、タルタロスの中で痺れを切らしているものがいた。



「遅い・・・」
誰もいない船室の中、アッシュはわかりやすく苛立ちながら呟く。
「死霊使いはあぁは言ったが、いくらなんでも待たせすぎだ・・・」
ここは待たなければいけない、それはアッシュも重々承知している。だが元来彼は気の長い方ではない。導師イオンがジェイド達のおかげでこちらに連れ去られて来ない分にはまだいいが、肝心のルーク帰還の知らせは一向に来ない。これではただ足踏みしているだけではないかと、アッシュは進まない現状にいらついていた。
「・・・とはいえ、俺が奴らと繋がっているのを悟られるような事は避けるべきなんだが・・・」
だが、自分は迂闊に行動を起こしてはいけないとも理解している。だからどうすればいいかと、アッシュは考える体勢に入った。



「・・・仕方ない、こうするしかないか」
程なくしてアッシュは何かを思い付いたようで、それを実行するために善は急げと足早に船室を出て行った。





そんなアッシュが向かった先は・・・
「・・・何の用、ですか?アッシュ」
アリエッタの所だ。甲板でお友達とゆっくりしているアリエッタを見つけて、アッシュはすかさずアリエッタに接触した。
「アリエッタ、行って欲しい所が・・・」
「何をしている、アッシュ」
だが用件を伝えようとするアッシュの声を遮る声が響いてきた。
「リグレット・・・」
「何をしようとしているのさ?まさかまた一人であのルークを探しに行こうとしてたんじゃないの?」
アッシュの前に来たのはリグレットとシンクの二人、若干面倒な二人が来たと思いつつアッシュは用意していた言い訳を口にする。
「・・・あの屑がいつまでもこねぇからアリエッタに様子を見させにケセドニアに行かせようとしただけだ。いつまでもこんな何もねぇところで待つだけなのはテメェらも飽きただろうが」
「意外だね、自分からあいつを探しに行くなんて言うと思ってたのに」
「・・・テメェらがうるさく言うから俺は妥協して案を出しただけだ。それとも文句があるのか?」
確かにバチカルに単独で先に行った時にはリグレット達からの説教をアッシュは喰らった。そのことから次に単独行動を取れば確実に追っ手がかかる、そう思ったアッシュはアリエッタに内密でケセドニア捜索を頼む予定だった。だがばれてしまった以上仕方がないと、アッシュは二人に怪しまれないようにとまだルークを憎んでいる振りをしながら答えた。



「・・・アッシュの言い分はともかく、このままでは閣下はいつまでも牢の中にいることになる・・・もしもの時には位置だけでも把握しておけば拉致してでも連れて帰る事が出来るか・・・」
アッシュの言葉を受けてリグレットは独り言を放ちながら考えている。その独り言に内心複雑なアッシュであったが、アッシュよりも更に複雑な気持ちになっている者がいた。
(アッシュにリグレット、ルークの事話してる時、凄く怖い・・・ルーク、何も悪くない、です)
それはアリエッタである。アリエッタからすればルークは自分の母親を救った恩人、悪い人とはアリエッタは思っていない。
(でも・・・リグレット、このままだったらアリエッタにルークを探しに行け、って言うです)
まだ決まってはいないが、独り言の内容から察するに確実にルーク捜索を命じる流れになっている。アリエッタはあのルークに危険が及ぶような命令に従いたいとは思っていない、だが自分はリグレット達の命には逆らえない。どうすればいいか、アリエッタは二つの考えで板挟みになっていた。




8/10ページ
スキ