救う者と救われるもの 第十話

一方そのころ、ヴァンは地下牢でモースと会話をしていた。





「まだルークは帰らないのですか?」
「それはまだだ。しかしルークが戻ってきさえすればお前はアクゼリュス派遣の際に牢から出ることが出来る。少しの間くらい辛抱しろ、どうせ体調不良だ。すぐにケセドニアから戻ってくるだろう」
「・・・はっ」
格子ごしに交わされる会話、今この場にはモースが人払いを願い出たため兵士はいない。故にこのような会話を普通の音量で隠さずに行っている。
「・・・しかし早くルークを呼び戻さねばまずいのではないのですか?あまり時間をかけすぎればアクゼリュスが先に崩落する可能性も・・・」
モースの返事に一回は頷いたが、ヴァンはルークを早く呼び出せと暗に示す。
「心配いらん。預言にはアクゼリュスに行ってルークが力を使えば崩落が起こると示してあったのだ。ルークが行くまではアクゼリュスが崩落するなどということは断じて起こらん」
だがモースはヴァンの言葉をすぐさま切って捨てる。その態度にヴァンは少しだけ今更ながらに不快感をモースに持った。
「下らん事は言わなくていい。ルークが戻るのをただ待てばいいのだお前は」
それだけ言い捨ててモースはヴァンとの会話を打ち切り上へと上がっていく。
「・・・愚物が」
その後ろ姿を見てそっと忌ま忌ましいげにヴァンが呟く。上に行ったモースはその呟きに気付く事なく、ドアを開けて兵士と入れ換えに出ていった。
(預言預言と・・・いつまでもそのようなことなど言えんようになる・・・私がここを出たらすぐにな)
表面上は自らの計画のため、預言達成に同調する動きをモースには見せている。だが、預言を覆す事を真の目的としているヴァンからすればモースなど唾棄すべき輩の代表とも言える人物。発言の一つ一つ取っても、ヴァンからすれば不快以外の何物でもなかった。
(とは言え・・・モースの言い分にも一理ある。どうせ体調をレプリカルークが崩しているのだ。回復するまで待つのも重要だ、無理矢理連れて帰ってもどうせしばらくはバチカルに縛り付けられるだろう)
だが発言を思い返せば今すぐルークを返しても休養を取らせなければ体調は良くならないだろう。船旅は体調が優れない者には病気促進の元になりえる、そうすればまた今以上に計画に遅れが来る。
(しばらくはリグレット達にセフィロト回りを任せるか。どうせレプリカルークのなだめ役は私がやらねばならん、ここから離れるわけにもいかんからな)
自分には内密に行動しているリグレット以下の六神将からの情報は入ってこない、だがリグレット達ならば事を上手く運んでくれる。そう思い自らの役目はここで待つ事だとヴァンはその場に座り込み、ドンと座して待つ体勢に入った。





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