救う者と救われるもの 第八話

「ご無沙汰しております、陛下。イオンにございます」
インゴベルトの前に来たイオンは礼と同時に挨拶をする。
「うむ、久しぶりだな」
「此度はマルクトより請われ、キムラスカとの和平の仲介に参りました。こちらがピオニー九世陛下の名代のジェイド・カーティス大佐です」
「御前を失礼いたします。我が君主より、偉大なるインゴベルト六世陛下に親書を預かって参りました」
そこでアニスが近くに待機していたアルバインに以前のように親書を手渡す。
「うむ、皆の者、長旅ご苦労であった。まずはゆっくりと旅の疲れを癒されよ」
モースの発言がなければこれほど早く話がまとまるのかというくらい、和平の話はすんなりとすむ。流石に導師イオンについてくる形で来ている以上、ここで余計な茶茶入れは出来ないようでモースは悔しそうに歯を噛み締めている。
「使者の方々のご部屋を城内に用意しています。よろしければご案内しますが・・・」
そこにアルバインの休息の案内が入ってくる。
「僕はそれでいいですが、ジェイドはガイと話があるのではないのですか?」
ここでイオンはアルバインの勧めに答える。肝心の屋敷に行く理由のルークがここにいないので、イオンの返事は妥当な所だろう。
「いえ、イオン様はアニスとゆっくり休んでいて下さい。ガイと話すだけなら私達だけで十分ですので」
そのジェイドの返答にアニスから視線が送られてくる。アニスの性格から考えて、『私だけ除け者ですかぁ?』といった感じの視線だ。しかしジェイドはそんな視線などお構い無しといった感じだ。
「カーティス大佐、すまないがティアとヴァンは私の方に来てもらっていいだろうか?二人に少し話を聞かねばならん事があるのでな」
そんな最中、ジェイドにモースが二人の呼び出しを催促する。
「えぇ、構いませんよ」
「えっ・・・!?」
あっさりと返された了承の返事にティアが驚く。
「それでは陛下、これで失礼します」
その返事に満足したのか、モースがインゴベルトに早くその場から退出するために頭を下げる。
「うむ、ゆっくりされよ」
その言葉に、謁見の間から退出を開始する面々。しかしティアはジェイドの言葉に納得いっていないようで、戸惑いの表情のまま一行の後ろを追い掛けていった。





謁見の間を出て長い階段を降りると、セシル少将がこちらに向き直ってきた。
「それでは私はこれで失礼します」
礼をとると、セシル少将はそのまま入り口の方へと向かっていった。
「さて・・・ティア、ヴァン。お前達は私についてきなさい」
「はっ」
「・・・」
セシル少将の後ろ姿を見届けると、モースが二人を促す。ヴァンはすぐに返事を返したが、やはりティアは納得した表情を見せずに黙ったままだ。それを見たジェイドはティアをなだめに入る。
「先程もイオン様に言いましたが、ガイと話すだけなら私だけで十分です。あなたは大詠師と話してきて下さい」
「ですが大佐・・・!」
「それに、ヴァン謡将ともゆっくり話せるいい機会です。この際ですから時間をとって互いの誤解を解かれてはいかがですか?」
そこまで言われ、ティアはジェイドはこんなことを言うような人物だったかと疑問に思う。大概ジェイドがこういうことを言う時は訳がある。それを思い出したティアは理由まではわからないが、ジェイドに考えがあるのだろうと意見に従う事にした。
「・・・わかりました」
「では導師イオン、私達はこれで失礼いたします」
ティアの同意も得られた事で、モースはイオンに礼をとる。頭を上げるとモースは用意されているだろう部屋の方へと、二人を引き連れていった。
「では導師イオン、私も失礼させていただきます」
「えぇ」
その流れをくんで、ジェイドもイオンに礼をとって城の外へと向かっていった。




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