救う者と救われるもの 第八話

T SIDE




ティア達は領事館を出た後、何事もなくバチカル行きの船に乗ることが出来た。以前はルークの音素振動数を示したフォンディスクを奪おうとシンクとディストの二人が襲って来たが、アッシュが同調フォンスロットを開こうとしなかったため、ルークの音素振動数を示したフォンディスクが存在しない。従って二人が襲って来る理由がない、故にティア達は平穏に船の上にいる。



「ルーク・・・」
甲板の上でたたずみながらルークの事を想い、独り言を呟くティア。
「どうした、ティア。浮かない顔だな」
そこに優しい笑みを浮かべたヴァンがティアの様子を見て近付いてきた。
「兄さん・・・」
「・・・ルークの事か?」
「・・・えぇ」
ティアの懸念にはルークの事もあるが、目の前の実の兄のヴァンにもあった。



シンク達がケセドニアで襲ってこなかったのはいいが、その分でヴァンといる事を強要させられている気がティア、いやジェイド達も思っていた。以前との流れが違う分にヴァンがどういう行動をとるかという予測が立てにくく、ティア達は不気味な気持ちでいっぱいだった。



「・・・私に前のように襲って来ないのは私の事を信じてくれたのか?」
「そういう訳じゃないけど・・・こんなところで争ってもなんにもならないから・・・」
「そうか・・・ならゆっくり誤解を解いていけばいい、時間はたっぷりあるのだからな」
ポンと肩を叩いてより優しい笑みを浮かべたヴァンに対して、より一層複雑な顔になるティア。
‘ブォ~’
「そろそろ着くようだな、出る準備をしよう」
船の汽笛からくる合図で部屋に戻るヴァン。
「兄さん・・・」
その兄の後ろ姿に悲しみを隠しきれず、呟く。自分への優しい姿は嘘でもあり、本当でもある。自らの前では自分を心配させないようにと、変わらない笑顔で嘘をついてくる。
「もう・・・嘘で飾った兄さんの笑顔は見たくない・・・」
昔はそれに惑ってしまい兄を疑うか、それとも信じるかとどっちつかずな態度になってしまった。しかし今は違う。全てを知ってしまっている今、優しい兄を演じているヴァンを見ているとティアはやり場のない気持ちでいっぱいだった。
「兄さん・・・あなたは私達が止めてみせる」
今度も、という言葉を心に留めてティアは皆の待つ船室へとヴァンが戻っていった先をチラッと見てから戻っていった。





4/11ページ
スキ