救う者と救われるもの 第八話

ルーク達がケセドニアに向かう船にいる最中、ティア達は一足先にケセドニアへと到着していた。




「ここにルークはまだいるのかしら・・・」
船から降り、ザッと辺りを見渡しながらティアが呟く。その呟きに呼応するように、ヴァンがティアの近くによってくる。
「ルークはもうここにはいないだろう。ここから船に乗ればバチカルまで一直線だ。わざわざここに残っておく理由はない」
「そう・・・ね・・・」
ここでもしかしたら再会出来るかもしれない、だがその希望も稀薄だと思っていたのでティアは気を多少落とす程度ですませる。
「ルークの事なら心配いらん、アルマンダイン伯爵も言っていただろう。兵士に守られてケセドニアに行ったと。それにルークについているあの傭兵もかなりのやり手だ、余程の事が起こらん限りは大丈夫だ」
慰めるように肩にポンと手を置くヴァン、そこに会話を黙って聞いていたガイが話に加わる。
「珍しいな、ヴァン謡将がそんなに人を誉めるなんて」
「買い被り過ぎだ、ガイ。私も人の子、人を誉める事くらいある」
とは言ってもガイはヴァンと話しているときにヴァンが誰かの事を良く評価しているのを聞いた事がない、そこでガイは思っていた疑問をヴァンにぶつける。
「ヴァン謡将がそんな風に言う事自体が珍しいって事ですよ、そこまでの人物なんですか?そのジューダスって傭兵は」
実際にジューダスを見た人物はミュウを除けば、目の前のヴァンしかいない。もちろんミュウからも話は聞いてはいるが、「あまり喋らない人だったですの」「全身黒い服の黒髪の人だったですの」とあまり全体の人物像が見えてこない外観の印象くらいしかミュウの言葉からは伝わって来なかった。あまり言葉を知らない幼子からの言葉だけを頼りにするのではなく、もう少し別の視点からジューダスという人物を捉えたかったため、ガイは探りを入れてみたのだ。
「実際に剣を合わせた訳ではないから分からんが、相当に腕はたつ。私が見たところではそこらの傭兵などより余程強いだろう」
ヴァンとて神託の盾の総長を兼ねている身、そのたたずまいである程度の実力を押し図る事は出来る。それを理解しているガイは素直に言葉を受け取る。
「それに礼儀もあまり傭兵らしくないほどに心得ていたな、あれだけの歳でよくというくらいに」
「歳も聞いたのか?」
「いや、聞いたわけではないが明らかに成人の域を越えてはいなかったな。私が見たところ恐らくティアとほぼ同じくらいだろう」
「そうか・・・」
新たに聞けた情報に納得した形で話を納めるガイ。ある程度の実力があり、礼儀も心得ていて、歳はティアと同年台。これを聞いてどうしようという訳でもないが、全く見たことも聞いたこともない人物相手に何も知らないまま進むのはどうかと思っていたので、情報を多少なりにも聞けたガイは少しだけ満足した。




その後キムラスカの領事館で入国の手続きを終えたティア達は領事館を出ようとした。
「すみません、ひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」
するとジェイドが受付の女の人に出ようとした矢先に質問を投げ掛ける。
「ルーク・フォン・ファブレという方はこちらに来られましたか?」
「ルーク様ですか?はい、こちらにこのように明記されております」
受付の人がノートを取り出し、紙を指で差しながら説明をする。
「・・・確かに。すみません、ありがとうございました。では行きましょう」
ルークの名前が書かれた部分を確認するとジェイドは踵を返し、ティア達に領事館から出ようと促す。
「大佐ぁ、いったいどうしたんですかぁ?」
「一応ルークが来たかどうかだけの確認ですよ」
「まぁこれでルークも先に行ったってはっきりした事だし、バチカルに早く行こうぜ」
ガイが先に行こうと皆を促す、それに答えるかのようにジェイドを除いた面々も領事館を早々と後にしていく。
「何故・・・安心出来ないんでしょうか」
ここに来るまでに何度も起こっている懸念、確かにルークの足跡を辿っているはずなのに追い付いている気がしない。そんな気持ちにジェイドは陥り、ポツリと彼自身の疑問と不安を溢した。





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