救う者と救われるもの 第七話

ここで時間は少し戻って、ティア達が国境にたどり着いた時、ルーク達はデオ峠に差し掛かっていた。




「ふう・・・」
以前休憩していた場所で、あの時と同じく休息を取り終わったルーク達はあと少しでデオ峠を抜けれるというところまで来ていた。
「・・・ルーク様、後ろから何かが・・・」
するとルークが率いている兵士から後ろに異常があると報告が入った。
「・・・アリエッタ!?」
報告を聞いたルークが後ろを振り向くと、後ろから来たのはライガに乗ってこちらに向かってきているアリエッタと二匹のライガだった。
「どうしますか、ルーク様?」
「・・・通して下さい、なんでここにアリエッタが来たのかを聞かなきゃいけないから・・・」
何故アリエッタがここにいるのかわからない、というより何故ここにくるのか・・・ルークは訳を聞かないことには話にならないと、アリエッタとの会話に乗り出そうと思っていた。
「・・・念の為に言っておくが、記憶は植え付けるな」
そのルークの決意に満ちた表情を見て、隣にいたジューダスが指輪の力を使わないようにと釘をさす。
「・・・それはわかってる」
ルークも使ってはいけないと熟知している、自らの記憶では形はどうあれ彼女の母親を殺しており、更にはイオンの事と彼女自身の末路を見せてしまうことになるということを。
「アリエッタにあんな顔をさせちゃいけないんだ・・・もう・・・」
彼女と顔を会わせている時、ルークがアリエッタの笑顔を見たことはなかった。いつも辛そうな顔、正直な話ルークが彼女と顔を会わせていた時はそうとしか見えていなかった。
「そうか・・・わかってるならいい」
ジューダスも聞きたかった事を確認すると、崖の岩壁へと腕を組みながら背中を預けた。
「そこの人達、止まって下さい、です!!」
ジューダスが黙して見るだけの体勢に入ったと同時に、アリエッタの制止の声がかかってきた。
「あの二人、ですか?」
ルークの前に着いたと同時に、乗っていたライガから降りてアリエッタはついてきたライガ二匹に何かの確認をとる。
「・・・そう、ですか」
「・・・?」
いきなりやってきたアリエッタに戸惑いを隠せず、ルークは眉をひそめる。
「あ、あの・・・ありがとう、です」
「へ?」
モジモジとしながらいきなり告げられたお礼の言葉に、また戸惑いを大きくしてしまってすっとんきょうな声を上げるルーク。
「ママの事を助けてくれて・・・」
「あ・・・」
しかし次に聞こえた言葉でルークはその意味が理解出来た。ママの事、それは紛れもなくクイーンの事。
「いや・・・気にしなくてもいいよ、そんなにお礼を言わなくても・・・」
「・・・?・・・なんでそんなに泣きそうな顔、するですか?」
「えっ・・・?」
ふと言われた一言に、自分は笑っていると思っていたのが否定される。
「えっ、えっ・・・なんで・・・」
自分は笑顔でいれたはず、しかし・・・
「涙が・・・止まらない・・・なんで・・・」
ルークの瞳からは自然と涙が溢れきている。悲しくはないのに、寧ろ嬉しい筈なのに、ルークはそう思っていた。



だがそれも無理はない、ルークも漠然とした不安の中をさ迷っていた。誰もかれも救いたい、その想いから始まった旅。だがそれもひとつのきっかけで全てが誤った方向へと行ってしまう。こう言ったプレッシャーをルークは過去に来てから常に抱えていた。しかしここに来て、思いもよらぬ救いの手が入ってきた。願ってやまないこと、その形が予想もしないところでやってきたため、ルークの心に安堵が出てきた。
「うっ・・・くっ・・・あう・・・」
しかしそれはダムの決壊のように、張りつめていたものが一気に溢れた証拠。ルークはこの瞬間、自分のやってきた事が報われていたと無自覚ながらも理解した。その為、ルークは涙を心の芯から溢れさせた。
「あ、あの・・・大丈夫、ですか?」
「・・・しばらくそっとしておいてやれ、じきに泣きやむ」
こらえようとすればするほどに出てくる涙を抑えようとルークが苦悩している姿を見て、アリエッタがルークを気遣おうとすると、ジューダスがアリエッタに近付きそれを制止する。
「思いきり泣かせてやれ、そっちの方があいつもすっきりするだろう」
「はい、わかりました」
ジューダスの言葉を受け、アリエッタも素直に見守る体勢に入った。





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