救う者と救われるもの 第六話

アリエッタの襲撃が不発に終わり、ティア達は何事もなくフーブラス川を抜ける事が出来た。

以前と違いアリエッタの説得の時間が短かった為、彼女達は思いの外早いスピードでカイツールへと到着した。



「ここにヴァンはいるはずなんだが・・・」
前はアッシュの襲撃の際のゴタゴタに紛れて現れた為、はっきりとどこにヴァンがいたのかを覚えてない。ガイは辺りを見渡しながら呟く。
「・・・おお、ティア!無事だったのか」
「・・・っ!兄さん・・・」
するとヴァンが宿から出てきた。ヴァンは一行の中にティアの姿を確認すると、笑顔でティアに近付いていく。しかしティアは戸惑いを浮かべる事しか出来なかった。
「どうしたのだ?ティア、そのような顔をして」
妹を心配する兄の顔、その顔を見れば見るほどティアはより不安げな表情になっていった。
「・・・ヴァン謡将、失礼だがこちらにルークは来なかったか?」
(さすがにティアには酷だったか・・・)
覚悟していた事とはいえ、実の兄との再びの対面。いつもは気丈な彼女もさすがに答えた、いや過去に戻ってから彼女が一番無理をしているとガイは感じていた。そんな動揺を隠しきれていないティアを見て、ガイが援護をする。
「ルーク?ルークならばつい先日ここを通っていったが・・・いきなりどうしたのだ、ガイ?」
やはり先に行ったか、そう思い苦い顔をするガイ。
「すみません、ヴァン。ティアとガイはルークという人に会いたかったそうなんです。ですが行き違いにずっとなってるらしく・・・」
そこにイオンが、イオンの目から見た意見を言う。本当はジェイドがフォローをしようとしていたのだが、イオンの他意のない言葉の方がいいと判断し黙っておいた。
「導師イオン・・・成程、そういう事ですか。随分とルークもティアの事を心配していたが・・・」
「ルークが、ですか?」
「ああ、ルークがここに来た時ティアの事を気にしていた。私に会った時、ティアの事をどう言おうかと悩んでいたそうだ」
「そうだ?ルークが言ったんじゃないのか?」
「ああ、ルークがエンゲーブで雇ったという傭兵のジューダスに話を聞いた」
「「「「ジューダス!?」」」」
またこの名前、ジューダスは今もルークの側にいるのかと全員が声を揃える。
「どうしたのだ?」
「・・・あ、ああルークが他の奴を信じるなんてなと思って・・・」
何故かいきなり揃った声に疑問をぶつけるヴァン。とっさにガイは昔のルークのイメージで、簡単に人になつくようなヤツじゃないと驚いているフリをした。
「・・・確かに私も驚いた。仕方ないとはいえルークがみしらぬ傭兵と旅をするとは思わなかったからな」
内心ヴァンも意外だったのか、その時の事を思いだしながら話す口調には、珍しいものを見たという驚きが感じ取れた。
「・・・とにかくルークはその傭兵と先に行きました。ですが導師、導師は何故このような所におられるのですか?」
ルークの事は言い終わった為、話の矛先をイオンにヴァンは持っていく。そう言えばこの時導師捜索の命を出されていたなとイオン以外のメンバーが思い出す。
「・・・ヴァン謡将、そのお話は宿で行いましょう。そこから先は私が説明致します」
ここでジェイドが内密に話を出来る場所へと、移動を促す。
「・・・導師イオン、よろしいでしょうか?」
「はい、これはあまり聞かれたくない話なので出来れば・・・」
「・・・わかりました、私は宿の中で待っています」
そう言うと、ヴァンは宿屋の中へと入っていった。
「では行きましょう」
イオンの言葉を受け、アニス、ガイの二人がイオンの後を追う。
「・・・大佐は行かないんですか?」
「いえ、すぐに行きますので先に行って下さい」
「・・・わかりました」
立ち止まって動かないジェイドに、ティアは声をかけるが後ですぐ行くというのでティアも先に行く事にした。
「・・・もうちょっと残っていて下さいねー」
ティアも宿に入った瞬間、誰かに話し掛けるかのような独り言をあらぬ方向にジェイドは言い放つ。その独り言を言い終わると、ジェイドもさっさと宿の中へと入っていった。





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