救う者と救われるもの 第五話

J SIDE



ティア達がエンゲーブの宿で休息をとっているその頃、ジェイドは現在エンゲーブとセントビナーの中間地点程の平野にいた。
「師団長、我々はこれからどうするのですか?」
ジェイドはタルタロスを以前神託の盾が襲撃してくるポイントにたどり着く前にタルタロスを真っ直ぐにしか走れないように固定してから脱出してきた。正確な移動を心掛けるならちゃんと人が操作しなければ暴走するが、タルタロスは囮。走らせるだけなら人は乗っていなくても別に構わなかった。
現在ジェイドの周りにいるのはタルタロスの操者の四人のマルクト軍人、彼らはこれからどうするのかという具体案を聞いていなかったのでジェイドに質問してみた。
「我々は導師イオンとの合流地点のセントビナーへと向かいます。しかし、神託の盾が大規模な捜査の手を伸ばしてくるのは明らかです。そこでこれからは神託の盾に見付からないよう、少人数で行動しますので人数を減らさせていただきます。なのであなた達にはセントビナーに着き次第、我々と別れてグランコクマに戻っていただきます」
「しかし師団長、師団長お一人で大丈夫なのですか?」
「心配いりませんよ、それともそんなに私が弱いので心配とでも?」
ニッコリと無言の圧力をかける。その笑顔に以前のジェイドとは似ているが何か質の違う、言いようのない違いを兵士達は感じとってしまい、「「「「分かりました」」」」と敬礼を本能で行ってしまった。
「わかってくれたようですね、なら見張りを続けましょう。神託の盾から追手が来てるかもしれませんから」
長い夜はまだ終わらないと、辺りをジェイドが呑気な口調で話ながら見渡す。口調こそはいつもの師団長なので、違いを追求するのは後でいいかと兵士達も辺りを警戒することにした。






A SIDE



一方、アッシュは誰も乗っていなかったタルタロスの中で、何故導師イオンどころかマルクト兵すらいないのかという議論の真っ只中にいた。
「明らかに俺達の襲撃は予測されていたとしか思えんな・・・」
「しかし何処からだ!?我々は内密に事を進めてきた!ここまで見事に出し抜かれるという事は情報が漏洩しているとしか言いようがない!」
艦橋の中で繰り広げられるラルゴとリグレットの会話。ラルゴは年の功でまだ落ち着いているが、リグレットは普段の冷静さを失ってしまっている。
「・・・過ぎた事を言っても仕方ないだろう。愚痴る位ならさっさと導師イオンを見つけるぞ」
リグレットのヒステリックな表情をいつまでも見ていて気持ちいいものではないと思ったアッシュはなだめるように言う。
「・・・そうだな、アッシュの言う通りだ。すまない、取り乱した」
そう言うとリグレットは凛とした態度を取り直し、彼女らしい表情へと戻った。
「・・・俺は外に出る、これで話は終わりだろう」
タルタロスを占拠してから今までずっと艦橋に缶詰状態だった、一人で考えたい事があると思っていたアッシュはさっさと艦橋から外に出ていった。



(死霊使いがタルタロスの事を指揮したんだろうな、兵士の被害を無くす為に)
甲板を歩きながら考えるアッシュ。元々アッシュにもタルタロスの兵士を助けようという気持ちはあった。故に襲撃の際には自らが指揮を起こし、マルクト兵を捕えるだけに抑えようとアッシュは思っていた。しかしジェイドの策のおかげで全く気を遣う事はなく、リグレットのヒステリーが発生するだけで被害は収まった。
(まぁいい。ルークにはカイツールで会えるだろう。・・・ん、あれは・・・)
ふと甲板の向こう側から、アリエッタがライガ二匹と何やら接触している姿が見えた。
(・・・以前ここでママが死んだと泣いていたな・・・)
アリエッタが泣いていた場面はよく憶えている。普段からよく泣く子だったが、タルタロスで泣いた時は普段より特に深く泣いていた。
(・・・あの時はライガが報告に来てアリエッタが愕然としたんだ・・・?)
すると以前とは違い、アリエッタは愕然とすることがなく、寧ろ何かに喜んだかのように顔を晴れやかにしてその場を去って行った。
(どういう事だ・・・?)
まだクイーンが生きていると知らないアッシュは怪訝な顔でアリエッタの後ろ姿を彼女が見えなくなるまでずっと見続けていた。




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