救う者と救われるもの 第五話

「それでは大佐、お気をつけて」
タルタロスの発進を見届け、そっと呟くティア。
「では僕達も戻りましょう、エンゲーブに」
「はい、イオン様」


















それから程無くして、エンゲーブに戻ってきたイオン達。エンゲーブに着いた時には辺りは既に夜になっていた。
「ルーク・・・!!」
しかし、ティア達にとって今重要なのは夜かどうかではなく、ルークの事。エンゲーブに着くなりティアはなりふり構わず、宿屋へと向かって行った。
「ルークという人はティアにとって大事な人なんですね」
「はい・・・」
イオンについていなければいけないアニスはティアの様に走り出す事はないが、彼女も正直宿へと走り出したい衝動を身の内に納めていた。



「すみません、ルークは・・・ルークはいますか?」
宿に入るなり、受付の男性に勢いよく詰め寄るティア。
「あぁ、今朝の・・・そのルーク?って人から置き手紙を預かってるよ」
男の人はそういうと、カウンターの下から手紙を取りだしティアに渡す。
「手紙・・・?」
手紙というものに何か不安を感じながらも、中身を確認していくティア。
「どう、ティア?ルークはいた?」
その最中、アニス達が宿に入って来た。しかし手紙を読んでいるティアはその言葉に反応する事はなく、代わりに「嘘・・・」と呆然とした声がティアの口から聞こえてきた。
「ティア・・・?ちょっとその手紙見せて!!」
ただ事ではないと見たアニスはティアから手紙を奪い取る形で、中身を確認していった。
「えーっと・・・『ティアへ  チーグルの森から戻ってきた時に宿屋にいなかったので、先にバチカルに帰ります。勝手だと自分でも思うけど早く家に帰りたいんだ。ジューダスと一緒に行くので心配いりません。  ルーク』・・・嘘・・・」
内容を見て、ティアが呆然としたのがアニスにも納得出来た。
「こんな・・・こんなのひどすぎるじゃん!!」
やっと会えるとアニスも思っていた。しかしこんな置き手紙だけ残して姿すら見れない、何故ルークに会えないんだという気持ちがアニスに憤りとして出てきた。
「・・・あの・・・ルークはいつここから出ていったんですか・・・?」
するとティアが力なく男性に問掛ける。
「昼ごろさ。あんたがいないって知ったら置き手紙を俺に渡してここを出ていったよ」
その男性の言葉に、ティアはすぐさま入口の方に向き直り、走り出そうとした。「ちょっと、ティア!!」その様子を見たアニスはすかさずティアの腰に抱きつき、独走を止める。
「離して、アニス!!」
「駄目、ティア!!外はもう夜だよ!?一人じゃ危険だって!!」
「落ち着いて下さい、ティア!!アニスの言う通りです!!」
必死にティアを止めようとする二人。しかしティアも早く行こう行こうと必死に二人を振り切ろうとしている。



「はぁ・・・はぁ・・・落ち着いた、ティア?」
「何で・・・何で止めたの・・・アニス・・・」
結局そのやりとりを一時程続け、体力を無くした二人はそのまま倒れこむ形で宿のベッドの上にいた。
「ティア・・・確かにルークに会いたいのは分かる。・・・けど、暴走しないで・・・ティアだけがルークに会いたいんじゃない。私だってルークに会いたいよ。でも、ティア一人で暴走してルークが喜ぶの?ティアが一人で出ていってもしもの事があったらルークは喜ぶの?ルークだったら悲しむよ・・・。それに私も悲しくなる・・・」
「そうですよ、ティア。そんなことがあったら僕も悲しくなります・・・」
必死なアニスの言葉にイオンの言葉も加わり、ティアも頭を冷やす。
「・・・すみません、イオン様。ごめんなさい、アニス。二人の事考えずに暴走してしまって・・・」
「いいよ、ティア。わかってくれれば」
「そうですよ」
「・・・ねぇ、ティア」
「・・・アニス?」
「ルークは無事、そう信じよう。信じた上でルークを見つけよう。ね?」
「・・・ありがとう、アニス」
不甲斐ない自分に激励をくれたこの少女に、自然とお礼の言葉が出てきた。ティアは気を張りすぎた自分に反省しながら目をつむった。





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