かつての全ては過去のもの

「・・・何?」
そこから明るく笑顔になって切り出したカイルの言葉に、ジューダスは思わずその意味を聞き返す。
「いやそのさ、これから先ジューダスってどうやって暮らしていくのかって気になってさ。それでなんの予定もなかったら俺が母さん達に頼むからさ、一緒に孤児院にいれないかなって思ってね」
「・・・成程、お前もスタン同様似合わん気を遣ったのか。だがどうして僕の生活の事に気がいったんだ?」
そこから苦笑いしながら返すカイルにジューダスは似た者親子だと返しながら、そう思うに至った経緯を聞く。
「・・・ちょっとマリアンさんの話を聞いて思ったんだ」



「「ジューダスを放っておきたくないって」」



「!?」
その質問にカイルはマリアンと覚悟を決めたよう名前を出すが、続いた言葉にジューダスは目と耳を思わず疑った。何しろこの世界にはもういないはずのルークがカイルの横で、カイルと同じ言葉を言ったように見えて聞こえたのだから。
「ジューダスはリオンだったころ、マリアンさんを守ろうと父さん達と戦った。一人で・・・そんなこと、父さん達は教えてくれなかった」
だが瞬時にルークの姿はジューダスの視界から消え、カイルの真剣な声だけがジューダスに届く。
「けど俺はそれを知っちゃったから尚更ジューダスを放っておけなくなっちゃうと思うんだ。だからせめて一緒にいれたらなーってね・・・どうかな、ジューダス?」
そこから精一杯明るい声を出し、不器用な考えを述べきってカイルはその答えをジューダスに問う。



(カイルとルークの姿がダブって見えたのは、二人が同じ気持ちを抱いているからか・・・)
ジューダスは問い掛けられた瞬間、瞬時にさっきの幻についての考えを自分なりに見出だした。あれは状況こそ違えどカイルがあの時のルークと同じく一片の迷いもなく、自分への気持ちを吐露したものがオーバーラップして見せたものだと。だからルークの姿がダブったのだと。
(なら僕が出す答えは・・・)
そしてその考えに至ったジューダスが出した結論は・・・



「・・・ああ」
「え・・・ああって?」
「だからそれでいい・・・と言っているんだ」
出て来た結論は受け入れる事、だった。
・・・どうせ自分を放ってくれるはずもない、ならいっそ今度はルークの気持ちに応えてやれなかった分カイル達の為にいよう。そうジューダスは考えたが故の答えだった。
「そっかぁ・・・よかった・・・ぁ・・・」
「?・・・おい、カイル・・・」
「Zzz・・・」
その答えがはっきり聞けた瞬間緊張と眠気の我慢の限界が来たようで、笑顔で枕に倒れたカイルから寝息が聞こえてきた。
「・・・話が終わったらすぐこれか、全く・・・」
その様子にジューダスは呆れたような声を出すが、顔は緩く笑んでいて声にも棘はない。らしいと言えばらし過ぎる、そんな光景を目の当たりにしたジューダスにもう迷いはなかった。
(・・・生きよう。誰にも恥じることのないよう、最後まで『ジューダス』として・・・)
こんな自分を想ってくれる人達がいてくれる、ならせめて想われるだけでなく人を想いながら生きていこう。それも極少数の人にだけでなく、より沢山の人を・・・
新たな決心を固めたジューダスは天井を仰ぎ、安らかに目を閉じた・・・












・・・それからジューダスは翌日カイルと一緒にスタンにルーティ達と話し合い、リーネから帰ってきてから孤児院で働くこととなった。

そしてそのきっかけを作る事になったマリアンとは、月に一通届けばいい程度の手紙のやり取りをする仲となった。これはスタンと一緒にリーネからノイシュタットに行き、等身大の『ジューダス』と『マリアン』で話し合った後、クレスタに戻ってしばらくしてからそうなりだした。今ではかつての主の子とメイドという立場ではなく、その関係を取っ払ったただの一人の友人という認識に互いになっている。



・・・高みの上で対等を目指す心を持つことは、既に対等になれないことを示している。劣等感と憧憬の目というのは、どんなに正しい位置でもその目測を誤らせる。

だが一人の人間として負い目を乗り越えたジューダスには、対等であることを求める意味はもうない。

・・・ジューダスはもうただマリアン一人の為に生きているのではない、彼女も含めた大事な者達と生きられる事が対等であるより大切であると思っているのだから・・・



「これも君のおかげだ、マリアン・・・」






END









16/17ページ
スキ