かつての全ては過去のもの

・・・そして、宿にて。ジューダスは宿に備え付けられていたソファーに腰を掛けると、早速手紙を開け中身を取り出して読み出す。



『ジューダスへ   貴方に手紙を出そうかどうか悩みましたが、話したいことがまだありましたのでこうやってフィリアさんのところへお便りを渡しました・・・貴方の姿を見た時は目を疑いました、もういなくなったはずの貴方の姿がそこにあったことに。ですが、それ以上に私は貴方の心が昔とは大きく変わっている事に驚きました。グレバムを倒してから帰ってきた時の貴方とはまるで別人とまで思える程に・・・あの時も貴方の成長は感じてはいましたが、ノイシュタットで貴方と話していた時に感じた物はその比ではありませんでした』



「グレバムか・・・確かにあの時の僕はようやくマリアンに並べたと思って浮かれていたな・・・」
そこでジューダスは次の文章には行かず、独り言を言いながら昔を懐かしむ。
・・・神の眼がストレイライズ神殿から奪われたと聞いて奪還任務についた時、ジューダスは世界のほとんどを回る程の大掛かりな物になるとは思っていなかった。そしてスタン達に旅の間その頑なな心を揺さ振られるとも。
任務を終えようやくダリルシェイドに戻ってきた時は今ならジューダス自身も認められるが、自身が変わっていることに喜びを覚えていた時期であった。
「フッ・・・確かにあの時と比べれば変わったな」
そこで昔を思い出すのを軽く笑んで止めると、ジューダスは再び文章に目を通しだす。



『・・・それに比べて私は様々な苦難に向かい合ってきた貴方に比べ、自分の至らなさを嘆くばかりでした。そのことについて、私は今も貴方に負い目を感じています・・・ですが貴方はそれら全てを含めて私に厳しくも、優しく言葉をかけてくれました・・・罪滅ぼしなどとは言いません。ただ、また機会があったなら、ノイシュタットに訪れて来てはくれませんか?もし来るのが無理そうだとしたなら手紙でも構いません。もう一度・・・貴方と話したいです、ただの『マリアン』として貴方・・・『ジューダス』と』



「そうか・・・ありがとう、マリアン・・・」
ジューダスはその答えを見て大きく反応せず、ただゆっくりと目を閉じて安らかな口調で感謝の言葉を口にする。



・・・かつて求めた最愛の人との対等な関係。だがそれは彼女の側に立っても遜色ない程立派な人間になろうと、自らに誓いを立てた物だ。そこには彼女の意志はない。

だが今彼女からの手紙には、彼女から対等な関係でジューダスと話をしたいと言ってきているのだ。あえて突き放すような言葉で自分から離れたというのに、それを受け止めてから彼女から近づいて来る形で。

最早昔のようになれないとはジューダス自身が一番よく知っているが、新たな関係を作れる。しかも形が違うとは言え、対等な関係として・・・そのことにジューダスも静かだが、安堵と喜びを感じずにはいられなかった。



『・・・もし私と話してくれるというなら思い立った時でいいので手紙だけでも寄越してくれれば嬉しいです。ただもしその気にならないというのならこの手紙は見なかった事にして構いませんので、気になさらないで下さい。   マリアン』



「・・・思い立った時か・・・」
文章を全て読み終えジューダスはその手紙を懐に入れながらも、手紙に書かれていた言葉に難しい顔をする。
「手紙を送るなら僕はどこかに留まらねばやり取りも出来んが、カイル達は世界を回り終えた。フィリアの話を聞き終わったらすぐにでもカイル達はクレスタに戻るのだろうが・・・僕一人が足並みを乱すわけにもいかんな・・・手紙を出すにしろノイシュタットに直接行くにしろ、クレスタに戻って以降だな・・・」
思い立った時に、と書かれていたからにはジューダスはすぐにでもノイシュタットに行く気持ちが芽生えていたがカイル達の都合を考えると今すぐ行くのははばかられる・・・
それに手紙を出すにせよ今の家を持たない根無し草の自分にはフィリアを経由して以外に確実に手紙を受け取れる手段がない。だが、だからと言ってフィリアの所に入り浸れる訳もない・・・
二つの問題から今すぐに返答を返せない。そんなもどかしさを感じつつ、ジューダスは一人ソファーに悩ましげに座っていた。








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