かつての全ては過去のもの

・・・マリアンが泣き止んだのは数分後だった。一度目より盛大に泣いた泣き後をハンカチで拭きながら、改めてマリアンは待っていたジューダスに顔を向ける。
「・・・ごめんなさい、貴方にあんなことを言わせてしまって・・・」
「いや、構わないでくれ。君をそうさせてしまったのは僕が原因でもあるんだから。ただ今の自分にヤケになってしまうことだけは止めてほしかったから、そう言っただけだよ。それに・・・僕がああ言えたのは、僕が『ジューダス』だからだ」
「エミ・・・ジューダス・・・」
寂しそうな顔を覗かせるジューダスにマリアンはエミリオと言いかけるが、すぐに口をつぐんでジューダスと呼びかえる。
「そうだ、それでいいんだ。僕は『ジューダス』だ、『エミリオ』に『リオン』はもういない・・・今ここにいるのは、ジューダスというただ一人の人間なんだ・・・」
初めて口にされた『ジューダス』という名に、ジューダスは話途中に覚悟を決めたように立ち上がり改めて真剣に話し出す。
「・・・かつてのようにやっていけなそうだとは君もわかるだろう、君は結婚を果たしてしまった。そして僕ももう、君に優しい言葉だけをかけられるとは思わない・・・それでも僕とまた話したいと思ってくれるならフィリアの所に手紙を送ってくれ、もしそうでないというならジューダスという男の存在は忘れてもらって構わない・・・」
「・・・っ・・・!」
掛値なしの想いが込められた『ジューダス』としての言葉に、マリアンもすぐには言葉が出ず驚きの様子を見せる。
・・・新たな関係性を作るのに本人が拒絶をしていては単なる自己満足に過ぎない。ましてやかつての最愛の人を二度も泣かせてしまっている事がジューダスに、それ以上の踏み込みを躊躇させるものとしてしまった。
今のジューダスに出来るのは彼女にその選択権を委ねるだけ、それだけだったためにジューダスは最後に告げる。
「・・・僕はカイル達の所に戻る。さよなら、マリアン・・・」
「!」
マリアンが望まなければ二度と会う気はない。そう言っているかのような別れの言葉にマリアンは目を見開いて驚くが、いきなり闘技場へと走り出したジューダスはその顔を直視することなくその場を去って行った・・・









・・・そして闘技場。場から去ったジューダスは闘技場に入っていた。



「どうだ、戦果は」
「ん~、ちょっとね~・・・」
そこでカイル達を見つけたジューダスは先程のやり取りが嘘みたいにいつものようにカイルに話しかけるが、どうとも言いにくいように首を捻る。
「何があったんだ?」
「いや、簡単に言うとリムルって子が現闘技場チャンピオンなんだけど、その子と俺らが話してたんだよな。それでカイルがスタンさんの子だって言ったらえらく食いついてさ、それで詳しく話聞いたらリリスさんの子だって言うんだよ!でもコングマンはスタンさんあまり好きな感じじゃないだろ?そこで色々口論があって試合どころじゃなかったんだ」
「・・・らしいと言えばらしいな」
ロニの説明を聞いたジューダスの脳裏に浮かぶのは、かつて事あるごとにスタンに張り合っていたコングマンの姿。そしてリムルにはジューダスは会ったことはないがスタンの事で食いついて来たことから情報を総合して、カイル・リムルの二人がコングマンのスタン嫌いに対して色々言い出した事から口論に発展したのだと考えた。
「それならどうするんだ?今から闘技場で戦うのか?」
「いや、もうアクアヴェイルに向かうよ。ちょっとコングマンさんと気まずいしね」
ジューダスの問いにポリポリと気まずそうに頭をかくカイルだが、それを聞いてジューダスは提案する。
「ならばアクアヴェイルに向かった後はアイグレッテに行くぞ、ベルセリアの花の礼とルーの報告をせねばならんだろう」
「うん、そうだね!じゃあアクアヴェイルの後はアイグレッテに行こう!」
「うん!」
「そんじゃま、行きますか」
その提案に三人は同意し、早く行こうと闘技場の外へと歩き出す。
(アクアヴェイルに行った後で寄ればちょうどいいくらいだろうな・・・)
そんな三人の後を追いながら、ジューダスは考えていた。もしマリアンが自分の事を考えて出すだろう結論が出るのはそのくらいの時間だろうということを。
(結論はどうであれ僕はそれを受け止める、それだけのことだ・・・)
そしてその結果いかんではマリアンとの縁が完璧に断ち切られるだろうことも、ジューダスは覚悟している。彼女が出した結論に口を挟まないと・・・



そしてノイシュタットを出る時マリアンの姿をジューダスは見ることもないまま、イクシフォスラーに乗って一路アクアヴェイルを目指して行った・・・







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