かつての全ては過去のもの

「私は何もわかっていなかった・・・貴方がどんなに悩んでスタンさん達と戦ったのか、何を失ったのかも・・・さっき貴方を馬鹿だと言ってしまったけど、貴方がいなければ今の私さえいなかったというのに・・・私は・・・!」
・・・マリアンの中に今なお燻っていた、『リオン・マグナス』に全てを押し付けてしまった残悔の念が再燃した。マリアンは再び顔を両手で覆い、それら全ての念を謝っても謝りきれないと言わんばかりの声を絞り出す。
「・・・自分を卑下しないでくれ、マリアン。僕も君も、二人ともが生きられる選択などあの時には存在はしなかったんだ。だから僕はせめて君が助かる道を、そう思っただけの事だ」
「でも・・・っ!?」
・・・ジューダスとて、二人ともに生きられる選択があの時にあったならすぐさま実行していただろう。だがマリアンが人質に取られている時点でその選択は既に消えていた・・・ジューダスは自分か彼女を選ぶ時、愛故に彼女を助けた。それは最早理屈で量れるような感情ではない。
だがジューダスの考えにマリアンは尚謝ろうと顔を上げるが、そこにあったのはジューダスのマリアンに初めて向ける怒りを伴い細められた瞳だった。その瞳があまりにも強いモノを秘めているとわかるだけに、マリアンの涙も声も一瞬にして戸惑いで止まる。
「ならば君は、自分が死んでいればよかったというのか・・・?君には子供もいる、夫と呼べる人もいるだろう・・・なのに君はとうの昔に思い出とした僕に、自分が死ねばよかったのではないかと言っているようなことを口にしている・・・・・・フィリアから悔いているとも聞いた、それから立ち直ったらしいとも聞いた。だから僕は君がそうして想ってくれただけでも、救われた想いがした・・・僕の死は無駄ではなかった、と思えてな・・・」
「・・・っ!」
怒りが多大に篭った瞳が一気にフィリアと名を告げた時から、物悲しい物へと変貌を告げた。マリアンは瞳を動揺で揺らがせる。
だが再びその瞳に怒りが燈る。
「・・・君の命はもう君だけの物ではない。これからはもう二度とそのようなことは言わないでくれ。そう言ってしまえば僕の死だけではなく君の家族も、そして君自身の今すらも否定する物なのだから・・・」
「っ!!・・・・・・ごめん、なさ、い、ごめん、なさい・・・っ!!」
・・・自分が死ねばよかった、その言葉を出す事は今まで生きてきた自分だけでなく家族も、今まで生きてきた自らの軌跡すらも無駄だと言ってしまう事になる。
厳しく言葉を選ばないジューダスのストレートな言葉にマリアンはそのことに気付き罪悪感に取り付かれ、顔をまた覆いながらもボロボロと手の下からこぼれ落ちる涙をまた流しながらとぎれとぎれに謝罪を口にする・・・



(マリアンにここまで言えるようになるとは・・・昔の僕からは考えられん事だな・・・)
マリアンが泣く様子を見守るしかない中、ジューダスはかつての自身では絶対に起こせなかっただろう事を内心で驚いていた・・・だがそれでも、ジューダスはあえてマリアンを突き放すべきだと思ったから厳しい態度を取った。
・・・マリアンが悔いているとは聞いた、だがその後の生活で結婚したと聞いて安心をジューダスはしていた。だがだからこそ会ってしまったならスタン達、かつての仲間以上に対話をちゃんとしなければいけないとも感じていたのだ。ジューダスは。
しかしヒューゴの屋敷にいた時のような感じで全て話せる訳もないし、話せるともあまりにも昔と違いすぎる今の二人では出来るはずがないとジューダスは考えていた。それと今の彼女では後悔の念が強くて、かつてのように穏やかな言葉では受け入れにくいだろうことも。
だからジューダスは彼女の後悔の念を断つ為に謝罪をしてきたときに覚悟して厳しい態度で挑んだのだが、それをやりきれたことにかつての自身との変化を否応なしに感じていた。






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