かつての全ては過去のもの

「・・・フィリアから聞いたが、神の眼の騒乱が終わってから君はこのノイシュタットに来たのか?」
「ええ・・・そうよ」
そこでジューダスは自らが知りたかった事もあり、フィリアの話を話題転換としてマリアンのその後を問う。
「私はストレイライズ神殿でしばらく悩んで過ごしている内に、働き口を見つけなきゃいけないなって思ったの。けど私にやれる仕事と言えば精々メイドくらい・・・でも崩壊したダリルシェイドに仕事を求める事は出来ない、そう思ったから私はノイシュタットに移ったの」
「・・・」
そもそもの話でマリアンがミクトランに操られたヒューゴに雇われたのは、ジューダスの母親の面影を持った彼女を持ってのジューダスの制御。その当時の年若い彼女はヒューゴの屋敷のメイドになる前は仕事をしたことがない、故にメイド以外のスキルはすぐには身につけにくい。確実な働き口を見つけるため、外殻大地の崩壊による被害の少ない新天地に行くのはマリアンの立場からはある意味当然の決断・・・ジューダスはそう思った。
「ただ・・・ノイシュタットに移ってもすぐには職にはつけなかったわ。その時はオベロン社が無くなってそんなに時間が経っていなかったから・・・」
「・・・だろうな」
そしてノイシュタットに移ってからも困難があったと聞き、その時の事を想像して複雑そうに返す。



・・・イレーヌがノイシュタットの街を想ってきたのも真実だが、ヒューゴ達と共に地上を滅ぼそうとしたのも真実。イレーヌの想いもジューダスはわからないでもないが、結果としてイレーヌは人々を相当に苦しめてしまった。

最愛の人を擁護も出来ず、かと言ってイレーヌを立てる訳にもいかない。ジューダスに出来たのは、オベロン社が無くなった後のゴタゴタがどんなものなのかを想像するくらいだった。



「その時はノイシュタットの街も大分落ち込んでいたわ。でもコングマンさんや貧困層の人達が諦めず強く必死に街を立て直そうと頑張ってる姿を見て私も負けられないって思ったの」
「コングマンか・・・奴も頑張っていたのだな」
その名が出て来た事で、ジューダスはそっと殴られた頬に手を当てる。
「ええ、その姿勢に感化された私もしばらく街が落ち着くまで頑張ってコングマンさん達と働いていたの。そして半年が過ぎる頃にはノイシュタットは以前よりも前向きになれたと、コングマンさんは言っていたわ」
「確かに、貧富の差は無くなったな。十八年前に比べて格段に」
「ええ・・・でも皮肉だと思ったわ。働き口を求めて富裕層のいるノイシュタットに来たのに、必死に生きる人の姿にようやく私も含めてお金が全てなんだって思わなくなるなんてね・・・」
自らの行動を話していくマリアンだったが、途端に自分の浅ましさが恨めしいと言ってるかのように顔を手で覆う。働きたいと思うのと金がただ欲しいというのは雲泥の差があるのだが、ノイシュタットという街に来た理由が自分の生活の為・・・ノイシュタットの現状を見て立て直そうと頑張ることを決めた彼女の心からすれば、それは同列になるのだろう。
「・・・同じ所にいつまでもいては見えない物がある、そう気付いたんだろう。マリアンは」
「・・・ええ、そうね」
過去を思い出し自己嫌悪するその姿にジューダスは顔を上げてもらおうと声をかけ、マリアンもその声に手を退け顔を上げる。そこには過去を想う、寂しそうな笑み。
「・・・私はここに来て考えたの、私は生きてきたんじゃなく生かされてきたんだって。貴方の事もそうだし、ヒューゴ様の事もそう。守られて、その貴方を利用する為に命を握られて・・・それにストレイライズ神殿でフィリアさんに気を使われてるのもわかってて、私は甘えてた事も自分でわかってた・・・でもそのことにはっきりと気付いたのは、ノイシュタットに来てから・・・ごめんなさい」
「・・・急にどうしたんだい?」
寂しそうな笑みの言葉から、ふっと下げられた頭。ジューダスは訳を問いながらも、その謝罪が何を示すのかを察知していた。






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