かつての全ては過去のもの

・・・丁寧に、余計な言葉を挟まず・・・ジューダスは自分の歩いてきた軌跡をしっかりと横顔を覗くマリアンに語っていった・・・エルレインにより甦った事、神を倒した後様々な偶然が重なりオールドラントに行った事、そしてオールドラントからまた偶然が重なってこちらに戻って今に至る事を・・・



「・・・という訳だ」
「・・・そんな、ことが・・・」
「やはり、そう簡単には信じられないか・・・」
全てを話し終えてやはりというか呆然とした声色のマリアンに、ジューダスはそっと目を閉じる。
「だがこれは事実だ、それは変えようがない。信じられない気持ちもわかるからな」
「・・・いえ、信じるわ」
「・・・ん?」
信じられないならそれでいいと語りながらもジューダスは立ち上がろうとする。だがマリアンから聞こえてきた声に上げかけた腰を落とし、マリアンに視線を送る。
「貴方は私には嘘を言ったことはなかったわ。私は貴方を信じる。信じる、けど・・・エミリオ、貴方馬鹿よ・・・私なんかの為に・・・」
「っ!・・・」
・・・そこにあったのは、マリアンの涙を浮かべた悲壮な顔と声だった。さしものジューダスもかつての愛を向けていた相手の悲しみを見て、言葉に詰まり苦しそうに顔を背けそうになる。だがジューダスは顔を背けず、マリアンにかつての想いを告げる。
「・・・僕の行動は確かに馬鹿だったんだろうな、端から見れば。だけど僕に後悔はない。君を・・・守る事を選べたのだから」
「!!・・・貴方、馬鹿よ・・・!」
「・・・ああ、馬鹿でいい。お前は馬鹿だとスタンにも言われたからな」
・・・見返りを求めることのない、犠牲の愛。ジューダスがかつてマリアン本人には見せられなかったもの、そのかつての想いの一端にマリアンは触れ・・・反射的に彼女は顔を手で覆い隠し、泣き崩れた。その姿を見てジューダスは馬鹿と言われた事を肯定し、マリアンから視線を逸らす。
(・・・昔の僕ならここで大丈夫かいマリアン、などと言って気遣えたのだろうが・・・もう彼女と僕の立っている場所は違うんだからな・・・)
かつての『リオン・マグナス』だったならマリアンを気遣い傷付けないように言葉を選んでいただろう、いや今でも泣き崩れているマリアンを見て酷く罪悪感にジューダスは陥っている・・・故にジューダスは視線を逸らしたのだ。
だがそれでもジューダスはまだ彼女と改めて二人の関係を作りたいと思っている。だからこそ場を立つことはしていない、まだ話をするために・・・









・・・あえて泣き止んでもらうようマリアンにジューダスが声をかけることもないまま、二人の間にはマリアンのすすり泣くような声以外出て来る事もなかった。
だが5分程経った時、ようやくマリアンも気持ちを落ち着ける事が出来たようで泣き声を止めた。
「落ち着いたかい?」
「ええ・・・」
そのタイミングを見計らった所でジューダスは声をかけ、マリアンも赤くなった瞳をハンカチで拭きながら答える。
「・・・エミリオ、貴方変わったわね・・・なんていうか、その・・・私もスタンさんと同じように扱うようになった、というか・・・そんな感じがするわ」
マリアンもそんなジューダスの違和感に気付き、昔と違う接し方に戸惑いながら声を上げる。
「今の僕はジューダスだ、『エミリオ・カトレット』でも『リオン・マグナス』でもない。頼む、僕の事はそう呼んでくれ」
「!・・・ええ、わかったわ」
そこでジューダスは初めて公私の区別をつけるための二つの呼び名を呼ぶことをどちらも止めてほしいと頼み込む。マリアンも二人きりの間の時には『エミリオ』と呼んでほしいと言っていた言葉をジューダスから自身で覆してほしいと言われた事で、驚きながらその頼みを受け入れる。
・・・もう昔のままでいられない、思い出のままでいられるような状況でもない。これは新たな関係を作る始まり、それをマリアンも感じた第一歩だった。








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