救う者と救われるもの 第二十三話

(ナタリアはラルゴとの話し合いを終えて前を向けるようになった、か。恐らくティア達も同じよう、自らにある問題と向き合えるようになるだろうな・・・だが、父か・・・カイルはルーティ一人の片親で育っていった。スタンも共にいてカイルを育てたなら、カイルはよりスタンらしくなるのか・・・?・・・ふっ、馬鹿らしい。カイルなら僕よりはまともに成長するだろう・・・僕よりな)
父と向き合った事を話すナタリアを見て、ジューダスは一人神の介入しない歴史でスタン・ルーティ親子に育てられるだろうカイルを想像しつつ、自嘲を心で呟き笑みを浮かべる。



ジューダスはミクトランに操られていたとはいえ、ヒューゴとまともな親子の会話を交わした記憶など一切ない。リオン・マグナスとして活動している中で自分は他とは違うと自ら言い聞かせるように、自らの存在の証明をしてきたジューダスだったが、そうするにいたる行動と思考回路を得たのはひとえにヒューゴの存在があった影響も少なくない。

その自らの経験、それを他人とあてはめる程に今のジューダスならはっきり言える事実があった。それは‘自分を取り巻く環境は一部を除き、人と比べてろくでもない物’だったと。少なく見てもカイルみたいな性格に育つ事のない、子供を育てるには間違いなく不適切な環境だと。

そんな風に考えがあるところに、ナタリアの話題があったためにジューダスはふと自身とカイル達を振り返っていた。

父親・・・それも自分を友と呼んだ男が、かつて自分に満たされた時間を過ごさせてくれた男を育てる・・・ジューダス自身は気恥ずかしさに内心で自身の発言をごまかしていたが、それでも確かに確信をしていた。スタンとルーティの二人で育てるならカイルは大丈夫だろう、と・・・



・・・だがジューダスはごまかしを自身に入れる事だけしか考えられず、気付けなかった。そうやってかつての仲間を思い温かい気持ちになれているという事実が、実はルーク達にもスタンやカイル達といた時のような感覚を覚えているのだということを。同様にルーク達といることで神のいなくなった世界の後の事を考えられるということが、ジューダスにとって予測だにしない事態を招いてしまうということを・・・












「うわぁ・・・!」
ルーク達とナタリア達が話し終えたため、ケセドニアの演説会場でもあるアスターの屋敷の前に行く事になり、ルーク達はケセドニアの街を歩こうとしたのだが・・・街の中は相当な数の人間が集まっていた。両国の兵士が押し寄せる人波をこらえるように必死に食いとどめ、ルーク達が通れるように進路を確保しなければならない程に。
「こんなに人が・・・」
このような光景を全く想像していなかったルークは呆気に取られ、呆然としかける。
「それだけダアトでの演説が世界に影響を与えたということだ」
「ジューダス・・・」
そんなルークにピッタリ後ろにつくよう移動し、ジューダスが小声で話しかける。
「今の世界の関心はダアトから発信された預言の事実を知った者達のその声を直に聞ける場、それを求めているんだ・・・だから早くアスターの屋敷に行き演説の準備をするぞ」
そう告げるとジューダスは不自然ではないようにルークから離れ、普通に後ろを歩く。
「・・・うん」
ここまで如実に世界中が注目をすると実感すると思っていなかったルークだったが、注目をしてくれるなら願ってもない事。公にジューダスに同意する事がこの場では不自然だと考えたルークは後ろを振り向かず、ただ口の中で小さく肯定を返してその足を早めた。







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