救う者と救われるもの 第二十二話

「結果としては悪くはない、僕から見ても聴衆達の反応は上々のものだった。これで世界には噂が流れる事になる、預言に対して考えるきっかけとなる演説の中身がな」
「・・・そっか・・・」
ジューダスからまんざらでもない反応を受けた事で、ルークは自然と笑顔がこぼれる。
「だが、演説の中身自体を言うならお前は感情を出し過ぎだ」
「・・・え?」
「確かに感情的に言えば人はのめり込んで来るだろう。だが見ていてあれは少しばかり肝を冷やした。いつお前が泣き出して演説の流れを止めてしまうのかと思ってしまったな」
「・・・俺って、そんなに表情に出てたのか?」
「あぁ、わかりやすかったぞ。明らかに僕じゃなくてもわかるくらいにな」
「・・・あぁ・・・!」
しかしジューダスが手放しで誉めっぱなしというような甘い事は中々ない。壇上でのルークの表情の揺れに駄目だしを入れるジューダスの声に、ルークはその時自覚がなかった事に自己嫌悪と恥ずかしさを感じながら頭を抱える。



(もっとも、あれが1番いい結果を招いたのだが・・・それを言ってはルークの為とは言えんからな)
そんなルークを見ながらジューダスは内心に浮かんでいる言葉をルークに言わず、留めるばかり。
むしろあの感情の揺れは聴衆達の心をすごく動かした、だから結果はそれでよかったのだ。だがああやって正直な気持ちばかりを言葉に乗せるだけなら、ちゃんと考えを持って言葉に出せなくなる場面がいずれは訪れる。
何も感情を出すなとは言わないがそれでも弱みと言えるような部分は作らない方がいい、さりげないジューダスのルークを気遣った一言だった。



「それよりルーク、何故お前は外に出て来た?」
「・・・あっ・・・うん、ちょっと演説が終わった後で寝ちゃって・・・それでさっき起きてちょっと気晴らしに外に行こうかなって思ったんだけど、そう言えばジューダスはどうして夜中歩いてたんだ?」
ルークが悩む姿に空気を変えようとジューダスが質問をし、ルークは頭をかきながらも質問に答えるが今現在夜に歩く不審者同士のジューダスに同じ質問をする。
「人の波が落ち着く頃に教会の中へ入ろうとしたらこの時間だっただけだ、そうしたらたまたまお前と鉢合わせしたというだけにすぎん」
「あ、そうなのか」
理由を聞いてルークは納得する、偶然二人はタイミングがあったから夜中出会っただけだと。
「僕はもう教会の中へ入って休むが、お前はどうする。ルーク」
「えっ・・・と・・・」
そして夜中に休むのはある意味当然。教会へ向かうと言うジューダスにルークが少し悩んで出した答えは、
「いや、俺はもう少しゆっくりして戻るよ」
「そうか。なら気晴らしが済んだら早めに戻って来い、明日からまた諸国を回る事になるんだからな」
「わかってるよ」
少し一人になること。そう受けて一言残すとジューダスは教会の中へ歩いていった。









「今日はなんとかうまくいった、確かにジューダスの言ったように反省するところはあるけど・・・それでもうまくいったんだ。そして明日からはキムラスカ・マルクト・ケセドニアに行ってダアトと同じように演説・・・それが全部済めば世界は預言に頼らなくてよくなって、ジューダスも・・・よし!」
そこで力強く手を握り闇夜の空をしっかりとルークは見据える、その先にある世界を・・・












世界が変わる為の一歩は確かに踏み出された



そして焔の意識は裏切る者と共に紡ぐ世界を夢見る



自らの想いと裏切る者の想いが平行にあることを知らず・・・



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