救う者と救われるもの 第二十二話

「先程彼が滅びを信じられない、といったようにその事実をそのまま享受出来るような心理状態に辿り着ける人間は非常に稀である。私はしばらく心を落ち着かせていた時に、ホドの崩落を体感した人間と現場を見ていない人間の感覚の差を知ってそう感じていました。故に私は考えたのです、ユリアの遺した預言・・・その滅びが詠まれた預言を覆す為にも、行動を起こそうと」
・・・鬼気迫る、一言。ヴァンの気迫に喉を鳴らす音が聞こえるかのように、聴衆達が後退するかのように一瞬気圧される。
それもその通り、ヴァンは世界を変えるという揺るぎない決意をただ心のままに言葉にしているに過ぎないのだ。あまりにも想いが強すぎて世界を滅ぼしてまで預言を無くそうとした、世界を救おうと暴走し過ぎた想いを。
「だから私は決断しました、預言を大事にして滅びる世界を待つより誰にも理解されずとも預言を覆してでも・・・人を救う、道を・・・」
そして苦渋に満ちた顔で、ヴァンは思いの丈を打ち明ける・・・ように区切る。実際は違う、救う道ではなく全てを壊す道を選んでいた。ヴァン自身は英雄視される為に行動していた訳ではない、むしろ罵倒されて当然の事だと覚悟していた。だが今必要なのは自身が英雄として見られるように、世界を穏やかに変革させるために望まぬ同情の視線を得る事。
・・・そんな心の中の葛藤が言葉に現れていたのだ。だがその人間臭さが逆によかった、今の言葉に聴衆達はより一層好意的な視線に変わっていく。



しかしヴァンとて葛藤があるからといつまでも表面に出す気はない。表情を再び引き締めると、抑制された理知的な声で話に戻る。
「・・・そこで、私は自分と同じようにその預言を覆そうと考えてくれる同志を探しました。その同志の代表格が六神将です・・・同志も集まり本格的に預言を覆す事を決めた今年、私は六神将とともにまずは手始めにアクゼリュスの住民の方々を救出しようと考えていました。ですがそうしようとした時に、私はローレライの意志を宿したティアと彼が飛ばされた場面に居合わせた事で何故こんな事をティアがしたのかという疑問を投げ掛けられ、その疑いの為にバチカルにてしばらく牢に繋がれてしまいました。そこから先は私は自分はしばらく行動出来ないと判断してリグレットに指示を委ねました。そこでリグレットはシンク・アリエッタの二人をアクゼリュスの様子を見てもらう為に遣いに出した、とのことです」
ここで中途半端に話を切りつつ、ヴァンは後ろに下がり出す。そしてまた再び、インゴベルト陛下がヴァンと入れ代わって拡声器の前に立つ。
「アクゼリュスに来た二人はルーク、そしてローレライと出会った事でヴァン謡将の事情を自身の判断で話しルークへの協力を申し出たそうです。そしてルークもその申し出を快諾しながら、二人に同行を願い出たとのこと・・・そんなルーク達から事情を聞いた事でようやく私は和平に踏み切る事にした、そういう訳です」
そしてまた、インゴベルト陛下も役割を終えたと言ったように再び後ろに下がる。繋がった、そんな気持ちなのだろう。インゴベルト陛下が下がるまでの間にどこかすっきりしたような聴衆達の顔が辺りを見渡せば広がっている。
そんな様子を見ながら、ルークではなくイオンが拡声器の前に出る。
「ルーク、それにヴァン。二人の話を聞いて私は驚愕を隠せませんでしたが、インゴベルト陛下から和平を結ぶ為の橋渡しを頼まれ私は気を取り直して再びグランコクマに向かいました。そこでグランコクマに着いた時に和平の報告、そしてルークとヴァンの話をしました。ピオニー陛下はその事実を受け止め和平を結ぶ決意を固められたのですが、まだ問題は残っていました・・・それは魔界に漂う障気です」
障気、不穏な単語に聴衆達の空気がまた緊迫したものとなる。







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