救う者と救われるもの 第二十二話

「ただ自分の解放を俺に頼むだけならわざわざ擬似超振動で飛ぶ必要なんてありませんし、星が滅びるなんて冗談でも言ってローレライに得な事なんてありません。それになによりアクゼリュスの現状を見て・・・これがこの星の末路の縮図なんじゃないかって、俺は感じてしまったんです。障気に包まれて徐々に人が弱っていく、その街の姿が・・・」
小さく声が消えそうになる痛々しいルークの様子に、それほどの物だったのかと聴衆達の驚きの目が同情的な瞳になる。
「その俺の旅の内で思い立った疑問にローレライは・・・そうだ、と返してくれました」
だがやはりこの疑問が肯定で返って来た事に、一斉に聴衆達が再び驚きに染まった。
「そのきっかけは、アクゼリュスが今年の内に崩落して消えた時に発生する戦争から、という事です」
‘戦争!?’
戦争、その単語にたまらず聴衆から驚きの声がざわめきの皮切りに出て来る。
「静かにしてください!・・・ユリアに詠まれた預言によれば、キムラスカの代表としてアクゼリュスに来た俺が超振動を用いて街を消滅させてしまった後にキムラスカとマルクトの戦争が始まる、とあってそこから世界を巻き込む疫病が発生するということです」
‘‘‘‘・・・!!’’’’
ルークはざわめく聴衆達を一喝して沈黙をさせた後、預言の内容を素直に明かす。だが戦争からの疫病との流れに、聴衆達は騒ぐ事も出来ずに息を一斉に呑んでいく。
「その事実を聞いた時、俺も皆さんと同じように愕然としました。ですがそれ以上に俺は続いたローレライの言葉に希望を持つ事が出来ました。それはその預言はもうキムラスカの代表としての俺ではなく、一個人としての俺がアクゼリュスでパッセージリングを操作して魔界に崩落ではなくて降下させることで預言は回避出来るって」
‘‘‘‘・・・!!’’’’
持ち上げて揺さぶり共感を誘うように、そして希望を持たせる話し方。今度は聴衆達は明るくなっている。



・・・コロコロ変わる表情の聴衆達はルークの話にくぎづけになっている証拠で、どんどんとのめり込んでいく。
「そこから俺はアクゼリュスの住民の人達を避難させてパッセージリングを操作した後、独自に世界を回る事にしました。その目的は二千年経ってアクゼリュス以外にも限界の近いパッセージリングを操作するためと、キムラスカ・マルクト・ダアトの陛下達にそのことを伝える為です。その際にローレライは世界が滅びる危険性を伝える為に自分もついてくると言ってくれて、俺と一緒に各地を回ってくれました。そしてパッセージリングを回る中でバチカルに戻った俺は伯父・・・インゴベルト陛下と、マルクトから和平の仲介の為にバチカルに来ていたカーティス大佐に導師イオンと対面して事情を説明しました」
伯父上と言いかけながら陛下と場所を考え訂正したルークは、二つの国のトップと会ったと言い出す。
「・・・その説得の結果、陛下は長年争っていたマルクトとの和平に踏み切ると俺に言ってくれました」
そして結果を明かすと、聴衆達はホッとしたように胸を撫で下ろす。と、ここでインゴベルト陛下がルークの横に移動してきた。
「ルーク、少しだけわしに話させてくれ」
「はい」
今度は自分、インゴベルト陛下がその弁を振るわんとルークから話の流れを譲り受ける。その雰囲気は明らかに重要な事を話すといわんばかりに、重い。
「・・・今話に上がった和平についてですが、ルークにその話を持ち掛けられる前は私は受けるかどうかを返答を先伸ばしにしていました。長年いがみ合っていた両国の仲を見直して付き合いたい気持ちと、長年いがみ合っていた両国がすぐに手を取り合って行けるはずがないという気持ち・・・相反する想いがあったが為に、結論を出せずにいました」
国のトップであるインゴベルト陛下の言葉はひたすらに重い。そもそも仲が良くなかった二国、その二国の片方が和平を持ち出して来たのだ。トップが悩むのも当然の問題で、しかも悩むその姿を恥も外聞もなく見せている。聴衆達は責めるでもなく、ただインゴベルト陛下に同調するようゆっくり頷いていた。









8/19ページ
スキ