救う者と救われるもの 第二十二話

「まず和平に踏み切るきっかけとなったのはマルクトのピオニー陛下がジェイド・カーティス大佐をキムラスカに使者として遣わせた事からになります。私、導師イオンはジェイド・カーティス大佐の願い出により平和を愛する者として仲介の役目を請け負い共にバチカルに参りました。そこで私はしばらくの間バチカルに滞在し、インゴベルト陛下の返答をお待ちしていました・・・ですが、私達がそうしている間にある重大な事実を知った人が現れました。それが彼、ルーク・フォン・ファブレです」
イオンの声にルークは応えるよう、その隣に足を出して位置着く。
「彼は体を構成する音素振動数がローレライと全く同じ人間でユリアの遺した預言にその存在が詠まれている人です。そんな彼がいつものように過ごしていた時、彼の元に普通では信じられない、伝説の存在が舞い降りて来ました・・・」
伝説・・・イオンが少し溜めるように間を置いた時、パラパラと再び囁くような会話が聴衆の間でなされていく・・・
だがそのイオンの言葉が脚色されたものだと、そういった声が出て来る事はない。その点については内心イオンだけでなくルーク達もホッとしていた。



・・・何故イオンが嘘をついてこうやって話をしているのか?・・・それはモースに六神将にヴァンが預言を知ってそれを認める、もしくは世界改変を企んでいたと知られては全てが台なしになるからだ。

もし事実に沿っただけの話をしたならかえって混乱を招く事になる。第七譜石に詠まれていたのが世界破滅、そんな事を馬鹿正直に明かした所でいきなりハイそうですかと受け入れる人間など極小数だろう。預言は一般的にはいいことだけが詠まれている、というのがオールドラントの常識で普通の意識にあることだから受け入れる人の方が少ない事が当然の事。

そしてヴァン達がその預言を覆す為にレプリカ大地計画を行っていたと明かしたなら・・・最悪暴動が起きてもおかしくはない。なにより預言を守るべきローレライ教団の神託の盾首席総長が筆頭となってそうしようとしていたのだ、何故罰を与えないなどと言われたらヴァン達を庇いようがなくなる。そうなって尚ヴァンを無罪だというようなら、聴衆達が暴徒になりかねない。

ルーク達が望むのは誰もかれもが預言無しでいらぬ犠牲が出る事なく生きる事の出来る世界、その上で預言が詠まれなくなることへの反発を出来る限り無くして受け入れる事が出来る状況を作る事。

・・・それら全てをクリアするための条件が事実を脚色すること、だった。






・・・時に何かを成す為には善くも悪くも心に何かを秘める事が必要になる、それが例え誰かを欺く事になっても・・・

ルーク達の心に迷いはない、それが自分達にやれる最善の事だと信じているのだから欺く事も必要だと認識している。

だからこそこの場は世界を相手取った騙し合いであり、世界の心を掴む為の事実を元に脚色された演劇の二つを兼ねた大舞台でもあった。









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