救う者と救われるもの 第二十二話

(!・・・うわぁっ・・・!)
開け放たれた教会の扉、その前にいたルークはその圧巻の光景を目にして驚きで声を上げそうになる。
教会の扉の前は階段から上以降は両脇の開いたスペースに向かって右側がキムラスカ・左側がマルクトの兵士達が待機しており、二つの陣営の先頭にはセシル・フリングス両少将が陣取っている。そして中央はイオン達を迎え入れるかのようにその人数分の空きがあり、その脇を固めるようアッシュ達に六神将がその場に先に待機していた。
その陣容を見ただけならルークも驚く事はなかっただろう。ルークが驚いたのは階段の下に見える光景だった。
(こんなに・・・人が・・・!)
・・・そう。階段から上には三国の重要人物とその兵士しかいなかったが、そこから下は溢れかえらんばかりの人、人、人・・・あまりにも人が多過ぎる為にダアトの街の方にまでも人が溢れていて、所々建物の屋根にまで登ってこちらを注目している人もいるほどで・・・そんなダアト全てを飲み込まんとする程の人達がイオン達が出て来た瞬間、ざわざわと雑談を交わしていたのだろう会話を一気に押し止めて話を聞こうと一斉にこちらを注目してきたのだ。
そういった何百規模では足りない何千規模の人の視線に一瞬、ルークは呑まれかけていた。
(・・・色んな所から色んな人が集まって来てるんだ・・・尚更失敗なんか出来ない・・・!)
だが決意に燃えるルークはすぐさま気持ちを熱く立て直す。実際に目にしてその演説の成功の重要性を確認して、ルークはイオン達と共にしゃんと胸を張り前に進む。






一挙手一投足全てが演説を見に来た人達に注目される中、右側のキムラスカ側にいた兵士達がなにやら白い台らしき物を、左側のマルクト側にいた兵士達が拡声器を持って、中央で止まったイオン達の前に近づいてその二つを手早く設置する。そしてしっかり台に固定されたと拡声器を確認するようマルクト兵士達がキムラスカ兵士達に視線を送ると、両兵士達はそれぞれの陣営へと足早に立ち去って行った。
「・・・それではお待たせしました。これより私達が知った事実・・・それをお話したいと思います」
兵士達が退散していくのと入れ代わり、イオンが辺りを緊張感に包む声で演説の始まりを告げる。
「ですがその事を話す前にまず、言わせていただく事があります。恐らく皆さんは長年冷戦状態で険悪だったキムラスカとマルクトの二国、その二国の両陛下がこの場で肩を並べられていることに疑問を抱いている事だと思います」
そこで‘確かに・・・’とか‘そういえば・・・’などの声がパラパラと聞こえてくる。
「そのことについてですがつい先日、非公式の形ではありますが両国の間で和平が結ばれました」
‘・・・えっ?’
‘何でそんな!?’
ここで和平の事実を初めて公の事にしたイオンの発言に、最初反応が薄かった聴衆がざわざわと騒ぎ出してくる。
「静かにしてください、皆さん!和平の事実をこの日まで明かさなかったのには、これから話そうとしていた事実に関係があるからなんです!」
騒ぎ出した聴衆達を静める為にイオンは声を張り上げ、繋がりがあることなんだと告げる。その言葉に聴衆はざわめきを止める。だが一人一人を見るにその口はむずむずと動いている、察するに何か言いたくてたまらないのだろう。
この場にはダアト住民だけではなく、キムラスカ・マルクトの国の民もいる。いきなりの和平の事実はやはり衝撃だったからしょうがない事なのだろう、一刻も早く知りたいという気持ちは。



そんな聴衆の感情を受けながら、イオンは毅然と表情を戻して話を続ける。









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