救う者と救われるもの 第四話

夜もまばらになり、辺りが少し明るくなった頃、ルークとジューダスはチーグルの森の入口へとたどり着いていた。



「ここか・・・」
「うん・・・」
改めて確認を取るジューダス。ここが最初の運命の分岐点となるだけあって、ルークも少し緊張した面持ちで返事を返した。



言葉もそこそこに二人はチーグルの森の奥に進んで行った。その後順調に先へと進み、チーグルの住みかの大樹へと向かっていき、中頃までたどり着いた時、以前には見られなかったある光景がルーク達の目の前に広がっていた。
「あれは・・・ライガ!?」
ふと見えた物、其れはクイーンではないライガが普通にチーグルの森の中にいるというものだった。
「・・・ライガはあの時はたまたまクイーンだけだったのだろう、何もライガは一匹しかいないような希少種ではない筈だ」
「あ・・・そっか」
ジューダスの言葉にルークも納得する。ミュウはライガの住みかの森を焼いたと言っていた。しかしそこにクイーンだけが住んでいたとは誰も言っていない。アリエッタの育ての親として長い時間生きていて、未だに子供を産んでいる。そうともなれば成長したクイーンの子供が周りにいてもおかしくない。前にここに来た時間にはたまたまクイーンの周りに他のライガがいなかっただけなのだろう。



二人がライガの様子を遠巻きに見ていると、その視線にライガが二人に気付いたらしく、殺気を混ぜた威嚇の咆吼を放ってきた。
「・・・迂濶な行動をとれば即座に仕掛けてくる」
ジューダスがライガの咆吼に自然と腰の剣に手を伸ばしながら呟く。傍らのルークはその言葉に反応せずに何かに驚いているようで、ただ呆然としていた。
「どうした、ルーク?」
ルークからの返事を待っていたジューダスは異変を感じとり、ルークにはっきりと疑問を口にした。
「・・・ジューダス」



「あのライガから『来るな!!』って声が聞こえた・・・」



少し戸惑いながらジューダスに言うルーク。言われたジューダスも目を大きく見開いて訳が分からないと表情だけで言わんばかりに驚いてしまった。
二人が時を忘れて驚いていた時、再びライガから威嚇が放たれてきた。
「・・・あっ、今度は『帰れ!!』って・・・」
ライガの咆吼を再び通訳するルーク。空耳と言うにはありえないこのルークの態度にジューダスは理由は何なのかと思い、ルークに質問してみた。
「ルーク、いきなりライガの声が分かるようになったのか?」
「うん・・・こんなこと初めてだ」
「以前はライガの言葉は理解できず、今は理解できる・・・仮説だがその指輪がライガの言葉を通訳したのではないか?」
ルークの指にはまっている指輪を指差して自らの考えを述べるジューダス。
「あ・・・そうかも。ローレライは俺の意思次第で指輪の使い方が変わるって言ってた。・・・俺、クイーンと話したいって思って歩いてた。だから指輪が俺の気持ちに答えてくれたのかな」
ジューダスの仮説は当たっていた。記憶と金を持っていたという事以外は前と変わっているところはない。指輪以外に有り得なかったのだ、変化の理由は。
「ならばルーク、強く想いながらライガと話してみろ。そうすればライガの言葉を聞くだけでなく、会話も可能かもしれん」
「うん」
ジューダスの言ったことが現実になりえるなら、このライガと戦わなくても良いかもしれない。そう思ったルークはライガに近付き、真剣な顔でライガに話しかけた。
「ジューダス、話せたよ」
無事、何事もなく終わった事に内心安心したジューダス。ルークはそれに気付く事なく話を続けた。
「『母に話があるなら背に乗れ、連れて行ってやる』・・・だって」
「分かった、行くぞ」
「うん」
会話を終え、二人はライガの背にまたがった。二人が背に乗った瞬間、ライガは一目散にクイーンの巣の方角へと走りさって行った。




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