救う者と救われるもの 第二十一話

「そして大爆発に更なる要素で最も重要な事、それはオリジナルが生命の危機に瀕する事です」
「・・・何?」
「とは言ってもあからさまにいきなり死ぬような外傷を受ける事が条件となるわけではありません。徐々に衰弱・・・と言いますと言い方はよろしくはありませんが、そういった状態で体に死を覚悟させる事が重要になります」
「・・・話が見えないのだが」
「覚えておいでですか、公爵。ルークの記憶にありましたワイヨン鏡窟のチーグル二匹の事を」
「・・・あぁ覚えている。確か一度目に見た時は二匹いたが、次に見た時は一匹だったな」
「はい。これはルークには話していない事なのですが、あのスターは大爆発によって一つになったチーグルなんです」
「何!?」
「あの二匹は完全同位体でしたね?サフィール」
「はい・・・そうです。ルークとアッシュ、偶然同位体になった二人のデータを元に完全同位体を再び成してみようと思いチーグルで実験をしました。ですがチーグルのレプリカを作った時にそのデータを入力したフォミクリー装置が壊れましたので、私は再び同位体を作る為の研究をしつつ数少ない完全同位体の研究の為にワイヨン鏡窟で彼らを観察していました」
「もう結構です。ですが私達がワイヨン鏡窟に入った時にはサフィールはしばらく来れていなかったのでしょうが、片方はもう一匹より体調を崩し弱っていました。そしてもう一度ワイヨン鏡窟に来た時にその弱っていた方の入っていた檻にはチーグルはいませんでした・・・そこで私は大爆発の可能性を疑いシェリダンにスターを連れていった時にミュウのソーサラーリングを借り、私とスターの二人きりでお話をしたら・・・予想は外れてはいませんでした。それが私が知る大爆発が起こりえる要素、生存本能による危険察知に繋がるんです」
「生存・・・本能?」
「大爆発は言わば自身が死なない為に無意識に身体が取る、自動的な自衛行動になります。環境を整えなければ大爆発が中々起こらないというのは日常生活において身体が危険を感じず、生命の危機に瀕した緊急行動に移れない事にも起因しているんです・・・そこで考えて下さい、彼がワイヨン鏡窟でヴァン謡将と対峙した後に彼が取った行動を。彼は公爵から見た感じでは生き急いでいるとは思えませんか?」
ジェイドからの問いかけにファブレ公爵は思い返すよう難しい顔になるが、アッシュはより厳しい顔つきになる。
話を聞いて大爆発の事は理解しているがそれでもやはり昔の自身を例えに出されれば気持ちいい物ではない。だが説明するには自身以外に例がないことも事実で、アッシュは止めろと止める事も出来ずただじっと唇を噛んでいる。



「・・・確かに、そう思えた」
ファブレ公爵は考え終わり、自身の考えがジェイドと同じ事になったと告げる。
「ありがとうございます・・・私から見て彼は命を賭けてでもヴァン謡将を止めようと必死でした。ここで問題なのは身体的な物ではありません、寧ろ問題は精神的な物です」
「精神?」
「彼が大爆発の事実を間違って理解していたことが原因です。アッシュはそれで自らがルークに取り込まれてしまうのではないかと焦り、精神的に弱ってしまいました。そういった脅迫概念に襲われる事、精神が追い込まれる事は肉体にも刷り込まれるんです、死にたくないと。更に同調フォンスロットを開き体内の音素が失われていっていたのも大爆発を促進して、心の余裕が失われる一因となりました。心から体に負担をかけてそこから更に体から心に負担をかける、それを何度も繰り返す悪循環の果てに・・・直接的な原因で最終的な決め手となったアッシュの死があったことが、ルークの体を乗っ取り完全同位体同士にだけ通じる摂理に基づいた現象の大爆発の完了を告げた・・・私はそう考えているんです」



ジェイドは自身の理論を話終えたと締め括ると同時に眼鏡を押さえる。
「・・・確かに理論に従うなら一概に起きる現象ではないと言えるな」
その声に反応したのはファブレ公爵ではなく、ジューダス。
「だがまだ何か言いたい事がある、元々それを話す為に僕をこの場に呼んだ。そうじゃないのか、ジェイド?」
「・・・なんだと?」
しかし続いたジューダスの確信めいた言葉にファブレ公爵がどういうことだと答えを求める声をあげ、モースにディストも似たような顔になる。








6/11ページ
スキ