救う者と救われるもの 第二十一話

「・・・つきましては私は演説が終わりましたら神託の盾を抜けたいと思います。大詠師、昨日書きました辞表になります。正式に辞める時にこれを受理する形で、退役の手続きをしてはくれませんか?」
カサッと紙の乾いた音がアルビオール内に響き、辞表をモースに手渡すディスト。その顔には迷いは見えない。
「・・・それがお前の選んだ道か。わかった、受け取っておく。だがお前は神託の盾を辞めてどうするつもりだ?」
モースは反対するでもなくそれを受け取り懐にしまうと、今後の活動指針を問う。
「・・・レプリカ技術に関して最後に一つだけ残った問題について研究したいと思っています。ひとまずはケテルブルクにてそれを解決するかもしくは・・・どうにも出来ないと判断するまではその研究に取り掛からせていただきます」
「・・・?」
ディストのどこか痛みを思わせる、苦しそうな言葉。更にはネビリム復活を諦めると言ったのに、再度新たな問題があるからと研究をするという強固な姿勢。ジューダスはたまらず眉をひそめて訝しむが、そのディストの声を汲み取って発言したものがいた。



「貴方が研究したいと言っている問題は大爆発、ではないですか?ディスト・・・いえ、サフィール?」



「!!」
「「「・・・?」」」
ジューダスの隣にいたジェイドが確信を持った声で昔の呼び名で本名のサフィール、と問い掛ける。ディストは驚きに身をすくませるが声を上げずうつむき、アッシュを除いた三人が初めて聞く‘大爆発’という単語に一層眉を寄せる。
「どうなんですか?」
「・・・はい、その通りです」
続いたジェイドの答えを求める再度の問い掛けに、ディストは観念してそうだと答える。
「・・・失礼、カーティス大佐。今出た大爆発という物は一体なんなのだ?」
たまらずレプリカ技術に関わりの浅いファブレ公爵が技術に連想させる大爆発の説明をジェイドに求める。だがその質問に答えたのはジェイドではなかった。
「それは私から説明します、父上」
専門家二人からではなく実の息子からの挙手、何故かとファブレ公爵は目で訴えていたが、アッシュは視線には答えずゆっくりと語りだす。
「父上、大詠師、そしてジューダス。三人には覚えのない単語でしょう、ルークの記憶にないその大爆発という言葉は」
前置きを置き丁寧に段階を踏むアッシュ、その話し方に三人は各々小さく首を振る。
アッシュの記憶と、ローレライに見せてもらった記憶を比較に出し自らの体験を持ってアッシュはエルドラントでの戦いの三年後の事を話し出す。









・・・そして全てを話し終えたアッシュ。
「・・・それで俺達はルークを助ける為にこの時に戻って来たんです」
「・・・なんと、いうことだ・・・」
大爆発により死んだはずのアッシュが助かった事、ルークは過去に戻った為に完全に消滅せずに済んだ事、ルークが過去に戻ったと知り彼を助けたいと思い時間差で戻って来た事・・・更なる事実を知り、ファブレ公爵は顔を右手で押さえ新たな問題の大爆発に絶句する。
「・・・大爆発が起こるケースは極めて稀で、実験環境を整えあらゆる不測の事態を起こさないよう細心の注意を払った上でも滅多に起こらない現象です」
そこにジェイドが大爆発の詳しい概要を補足する。
「いかに完全同位体とはいえ、一概に起きえると軽々しく言える現象ではありませんでした。ですが・・・それは実際に起こりました。この事でアッシュ、彼が戻って来たのが事実です。そこで彼から事情を詳しく聞いた為に私達も過去に戻って来れたのですが、もしもの場合ルークが再び大爆発でアッシュに取り込まれる可能性も0ではありません。現にサフィールもそのことを危惧しています」
ディストが大爆発を経てアッシュが戻って来たと考えたのは、ルークの記憶から既に死亡済みの人間が過去に一緒に戻って来れるはずがないと考え大爆発を起こして来たのではないかと察したから。そこで大爆発の回避の為ルーク達に恩があるディストは最後のレプリカ技術研究を大爆発回避に費やす事を決めた。
「以前より状況は改善されつつあります。ですが大爆発に関しては」



「今現在では確実に起こるのか、起こるにしても何時なのか・・・こればかりは私達にもはっきりとはわかりません」
だがそのジェイドの物語る声がアルビオール内にいる人間にはっきりと印象づかせた、大爆発回避がいかに難しいかということを。





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